世界に広がるロシアのネット世論操作手法。実は東南アジアはそれに先んじていた!?

東南アジアではネット世論操作は前からあった!?

 ただし記事にはあたかもロシアが全ての源流のように書かれているが、必ずしもそうではない。私の知る限りでも東南アジアではロシアのアメリカ選挙への介入が広く知られるよりも前からネット世論操作が行われていた。そこにさらにロシアが近づいている状況だ。これらの国の事例は、拙著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』においてくわしく紹介している。  そもそも東南アジア諸国の多くはすぐ近くに中国という大国があり、飲み込まれないようにするためにロシアに近づきながらもバランスを取っている。アメリカあるいはヨーロッパに近づくという選択肢もあるが、まっとうな民主主義政策をとっていない政権に対して欧米諸国は厳しい。  カンボジアのフン・セン首相は1985年以来30年以上、元首の座にいるが、近年のSNSの普及によって自分の地位が脅かされることをおそれ、逆に積極的にその力を利用するになった。自らフェイスブックでの存在感を増すとともに、フェイスブック上での政府批判などの監視を開始した。隔月で問題のある発言をしたアカウントをまとめてフェイスブック社に送り、停止してもらっているという(フェイスブック社は自社のポリシーに沿って対応しているとしている)。特にひどい批判を発見した場合は、警察に通報し逮捕させている。  また「フェイクニュース」という言葉が政権の都合のいいように使われている。カンボジア政府を「権威主義」とフェイスブックに書き込んだ男性が、その結婚式で逮捕された事件が端的にカンボジアにおいてどのようにフェイクニュースが定義されているかわかる。カンボジアでは政府の弾圧によってニュースメディアがなくなっているため、相対的にSNSの重要性が高まっている。そこをさらに抑圧しようとしている。  カンボジア政府の見解では、フェイクニュースは、安全保障に関わる問題であり、3つの省がネットの監視に当たるという。またウェブサイトは事前に当局に登録しておかなければいけないことになった。ウェブサイトやSNSにフェイクニュースを投稿した者は懲役や罰金を課せられる。

80万のサイトが噂やヘイトを発信していたインドネシア

 インドネシアでは2014年の大統領選挙の時にネット世論操作が注目された。軍や政権と関わりを持たない候補者について、中国人でイスラム教徒ではなく、共産主義者というフェイクニュースが流された。  同国にはネット世論操作のためのフェイクニュース・シンジケートが存在していた。もっとも有名だったのはサラセンと呼ばれる組織だ。サラセンはインドネシア有数の悪質なフェイクニュースやヘイトの発信源となっており、フェイスブックには80万以上のフォロワーがいる。一回の投稿でおよそ7,500ドルの広告収入を得られるという。この時、フェイスブックは閉鎖されたが、ウェブサイトやツイッターアカウントは消されなかった。  サラセンは2014年の知事選において、「ジャーナリスト」(本物ではなく注文通りの記事を書くライター)を雇い、フェイスブックページなどいくつかのサラセンのメディア=情報発信源に記事を掲載し、拡散していたとされている。  このようにサラセンはインドネシアにおける最大のフェイクニュースの発信源だった。しかしサラセンはいくつもある発信源のひとつに過ぎない。インドネシアの通信情報省によれば2016年80万のウェブサイトが噂やヘイトを発信していた。この莫大な数を見るとインドネシアにおいてフェイクニュースが深刻で根深い問題であることがよくわかる。サラセン以外の主なフェイクニュース発信源としてはムスリム・サイバー・アーミーなどが存在している。
次のページ
ドゥテルテ政権維持のためにネット世論操作するフィリピン
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会