大統領選挙(2002年)では数万人の熱狂的な支持者が街頭に集まった
アリアス氏は、1987年のノーベル平和賞受賞者。同年に妥結した中米和平交渉の功績を受けての栄誉だった。
1980年代の中米は、世界の火薬庫と呼ぶにふさわしい状況だった。グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグアでは内戦が続き、ホンデュラス、パナマは軍事政権だった。その中でコスタリカは「丸腰国家」政策を貫き、さしずめ「中米のエアポケット」のような状態だった。
1986年に大統領に就任したアリアス氏は、中米各国内のみならず、欧米まで巻き込んだ世界的外交を展開して、不可能とさえ思われた3か国一括での内戦終結に向けた和平協定を結実させた。その卓越した外交手腕は世界の認めるところとなり、現在でも中米・ラテンアメリカはもとより、世界の軍縮問題にも強い影響力を持つ。
その「平和のアイコン」だったアリアス氏に突きつけられた疑惑の意味は、果てしなく大きい。
疑惑を否定するも党から離れ、追い詰められるアリアス氏
2月7日、アリアス氏は所属する国民解放党から離れると同党の幹事長は語った(『ラ・ナシオン』紙)。当初の強気から守りに転じた形だ。
NYT紙が実名報道してからというもの、各紙がそれぞれの告発者のインタビューを掲載し、ハラスメントの内容を事細かに報道し始めた。それぞれ非常に生々しい状況が描写されてていることで、はかりしれないダメージを与えているようだ。
ただし党を離れるのは「司法判断が降りるまで、一時的に」という留保がついている。
しかし、国内では『ラ・ナシオン』紙が追加記事を次々に発表し、国外でも『ワシントン・ポスト』紙などが独自取材を展開しはじめ、報道は拡大の一途をたどっている。今後まだまだこの事件は拡大していく様相だ。
昨年のノーベル平和賞は、奇しくも戦時性暴力のサバイバーと、その被害者を救った医師に贈られた。その意義を考えれば、告発が相当程度真実であれば、ノーベル賞の剥奪にも値するだろう。
今後の真相究明が待たれる。
<文・写真/足立力也>
コスタリカ研究者、平和学・紛争解決学研究者。著書に
『丸腰国家~軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略~』(扶桑社新書)など。コスタリカツアー(年1~2回)では企画から通訳、ガイドも務める。