モスルの病院の壁やガラスには弾痕、ガレキと不発弾が散乱
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ナナカリー病院の庭に咲くバラ
イラクのクルド自治区の首都・アルビルにある、ナナカリー病院の治安は安定している。モスルやアンバール州が「イスラム国」に占領されてから、患者が避難して治療に来るようになった。病院の庭はきれいに手入れされていて、春先はバラなどが咲いている。
しかしモスルの病院に行くと、「イスラム国」が去っても薬は不足。看護師たちは、イスラム国が支配していた3年間のブランクがいまだに埋められず、技術水準が低いのだ。加えて、治安が悪いため外国からの支援も思うようには入ってこない。
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モスルの旧市街、いまだに復興は進んでいない。2018年12月末撮影
JIM-NETでは、2~3か月に1回は薬をモスルに届けている。モスルの患者に絵を描いてもらおうとした。しかし、庭にはバラのような花は咲いていない。病院の壁には弾痕、窓ガラスには銃弾が撃ちぬかれたときの穴が開いたままだ。
空爆されたときに飛び散ったガレキと不発弾が、いまだにかたづけられていない。焼けただれた薬瓶が散乱していて、足の裏でぱりっと割れていく。そんな中、タンポポだけが咲いていた。
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かつて「イスラム国」が支配していた地域の、瓦礫や不発弾の写真をインスタレーションした作品「戦場のたんぽぽ」.。もう瓦礫はたくさんだ、というメッセージを込めた(2月8~13日、東京・ギャラリー日比谷「戦場のたんぽぽ」展より)
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銃撃を受けた救急車の前で当時を説明するワサン先生
ラワンという9歳の女の子が「主治医のワサン先生を描いた」と絵を見せてくれた。美しくも、勇敢に描かれている。ワサン先生は、30歳くらいと思われる女医だ。イスラム国がモスルを占領しても恐れることなく、その地にとどまって子どもたちの治療を続けている。
「小さい時から貧しかったから、アルバイトをして勉強をつづけたんです。そして医者になりました。だから、患者がいるのにモスルを去るという選択肢はありませんでした」(ワサン先生)
そんなワサン先生が大好きなラワンは、モスルから南に下ったシャルカートという村の出身で、7人の兄弟がいる。この町はISに占領されていた。お父さんは名前が「サダム・フセイン」というだけで、ISがいなくなっても仕事につくことができないでいる。
2017年の8月に体調が悪くなったお父さんは、がんだと診断された。抗がん剤治療を始めたが、まったく効かない。どうもがんのタイプがきちんと診断されていないようだった。モスルではきちんとがんの診断ができないのだ。
このままでは死を待つのみだという。そこで、ヨルダンの「キングフセイン・がんセンター」で正確な診断を受けることになり、その検査費をJIM-NETがカバーした。その後正確な診断がつき、治療は順調に進んでいる。
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タンポポの絵を描くラワン
庭に咲いていたタンポポを摘み取り、ラワンに描いてもらった。たんぽぽのように力強く咲いてほしい。そんな思いを込めてチョコのパッケージをデザインした。
<文/佐藤真紀(
JIM-NET事務局長)>