レーダー照射問題、防衛省主張の妥当性を改めてファクトチェックしてみた

あまりにも不誠実な防衛省によるCUESの説明

 以下、防衛省の主張への検討。 6) CUESについての記述  防衛省は、「火器管制レーダーの照射は、火器の使用に先立って実施する行為」としており、これ自体は正しいのですが、相変わらずイルミネーター照射であるか、射撃電探であるのかを明らかにしていません。この二つはともに火器管制レーダーと解され、事実日本側では多数の政府寄生者や与党政治業者によって「ロックオン」=イルミネーター照射という発言がメディアを通じて大量になされ、世論を無意味に主戦論へと煽ってきました。これは防衛省の責任きわめて大です。  また、防衛省のCUESに関する引用と説明がおかしいです。そもそも、防衛省によるもとの説明から最終報告ではCUESに関する説明が「二転三転」はしていませんが、かなり変わっています。  Code for Unplanned Encounters at Sea(CUES)は、海上衝突回避規範と邦訳されておりますが、この「衝突」は武力衝突や軍事的インシデントも含みます。軍事的インシデントは世界中で日常多発していますが、それが戦争に発展することも人類共有の事実で、それを抑止するための取り決めの一つとして、CUESは、2014年にようやく中国の承認を得て合意されました。  法的拘束力や遵守義務はありませんが、このような合意を得たことは画期的です。なお、日本、韓国、合衆国、ロシア、中国、フィリピンが周辺合意国です。  CUESの2014年版正文はこちらです(出典:US NAVY JAG)。なんと、テキストでなく画像です。使いにくくて仕方ありません。  今回のインシデントに関わる既述はpp. 8の末尾に記載されています。
CUES

via US NAVY JAG

 このうち項目a)と項目e)が今回のインシデントに該当すると考えられます。本来、外務省による正訳が必須なのですが、私が仮訳します。あくまで仮訳ですのでご承知ください。 a) 砲、ミサイル、火器管制レーダー、魚雷発射管またはその他の兵器を遭遇した艦艇または航空機に照準する(狙いをつける)ことによる模擬攻撃。 e) 遭遇した艦艇近傍(付近)での機動飛行(特殊飛行、曲芸飛行)および模擬攻撃。  a) が防衛省側の主張であり、e)が韓国側の抗議の根拠となりうるものです。  ここで防衛省の主張を検討してみましょう。 2018/12/22韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(邦文英文)  韓国も採択しているCUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)において、火器管制レーダーの照射は、船舶又は航空機に遭遇した場合には控えるべき動作として挙げられています。  Furthermore, the Code for Unplanned Encounters at Sea (CUES), also adopted by the ROK, lists the irradiation of a fire-control radar as an action to be withheld when encountering ships or aircraft. 2019/1/21 韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(邦文英文  我が国や韓国を含む21 か国の海軍等が、2014 年に採択したCUES(Code for Unplanned Encounters at Sea=洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)では、こうした行為は攻撃の模擬とされ、指揮官が回避すべき動作の一つとして規定されています。  According to CUES (Code for Unplanned Encounters at Sea), a code adopted in 2014 by navies from 21 countries including Japan and the ROK, aiming fire control radars is considered a simulation of attack, and isstipulated as an action a commander might avoid.  英文を比較すれば一目瞭然ですが、防衛省の主張は一か月で次のように後退していますし。また、CUES正文とも異なります。そして、補足説明資料 p.p. 4に、CUES正文の翻訳を記述しています。英文では正文の2.8.1 a)が引用されており、これで当該箇所の英文は、12月の文書の正文から改変されたもの、1月の文書の正文から改変されたもの、さらにこの正文と三種類になります。これは異常です。 ●12/22当初の表現(防衛省英文発表より) the irradiation of a fire-control radar as an action to be withheld (日本語訳)火器管制電探による照射は、抑制されるべき行動 ●1/21 1ヶ月後の表現(防衛省英文最終見解より) aiming fire control radars is considered a simulation of attack (日本語訳)火器管制電探による照準は、攻撃の模擬行為として・・・・ ●1/21 英文捕捉資料での引用 Simulation of attacks by aiming guns, missiles, fire control radars, torpedo tubes or other weapons (日本語訳)砲、ミサイル、火器管制レーダー、魚雷発射管またはその他の兵器を(遭遇した艦艇または航空機に)照準することによる模擬攻撃。  外交文書の常ですが、条文の解釈は微細に渡って交渉の余地を残しており、この場合、「射撃電探照射が模擬攻撃に該当するのか」については、正文を読んだだけでは確定できません。ここに外交文書の怖さがありますし、交渉、協議の重要さがあります。そもそもCUES正文の簡潔な文書を正文と異なる冗長な英語に改変すること自体が極めて不誠実なことです。  防衛省が英文でも文書を公表してきたことは、韓国国防部と比してたいへんに優れたことです。韓国国防部のそれは、抜けだらけで英文サイトはほとんど役に立ちません韓国語でも抜けが見られます。しかし、国際的な取り決め、条約について、引用でなく変な英語に改変することは、きわめて不誠実かつ危険なことです。「ポツダム宣言を黙殺する」が、連合国側に予期しない受け取られ方をされたこととも通じます。  なお、Wikipedia日本語版のCUESに関する記述は、1/27に改善されていますが、元旦の朝6時前にIPユーザーによっておかしな記述にされ、1月を通してそのおかしな項目が国内のレファレンスにされていました。 ▼CUESに関するWikipedia 2019/01/01 5:55 JSTの編集版 ”海上衝突回避規範、(英: Code for Unplanned Encounters at Sea)は、2014年に西太平洋海軍シンポジウムで合意された規範で、海上での偶発的衝突を防ぐため 21か国で合意。主な内容は、他国船と予期せぬ遭遇をした場合、無線で行動目的を伝え合う。射撃管制用レーダーを相手艦船に一方的に照射しない、などがある。”(※強調部が問題の箇所)  この記述が1月末までを通して国内のレファレンスとなっていたのですが、この記述の原典は、項目内でリンクが張ってあるCUES原文でなく、日経新聞の古い記事(参照:“日米中など21カ国、海上衝突回避規範で合意” 2014/4/22日本経済新聞からの引用でした。このことだけでもきわめて危険な記述であることは自明です。  この防衛省最終報告のなかでCUESは日本側主張の正当性の柱となるものですが、残念ながら妥当性には日韓当事国同士の協議が必須であり、一方的主張は虚空に吠える犬の鳴き声程度の価値しか持ちません。  なお、私は外交文書の翻訳資格を持ちませんので、仮訳は正規の翻訳ではありません。防衛省の補足説明資料にある訳も正訳であるかは不明です。
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国内向けプロパガンダとしての「事実の歪曲」
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