水道事業、種子法、北方領土……。安倍政権が進めた政策から見えてきたもの

安倍信者のメンタリティー

 状況を嘆いているだけでは仕方ないので、なぜこのような政権が続いているのかについて述べておく。  一つは現実を見たくない人が多いからだろう。「日本を破壊したい」という悪意をもって安倍政権を支持している人間はごく一部であり、ほとんどは無知で愚鈍だから支持している。左翼が誤解しているように安倍を支持しているのは右翼でも「保守」でもない。そもそも右翼が4割もいるわけがない。安倍を支持しているのは思考停止した大衆である。  大事なことは、安倍にすら悪意がないことだ。安倍には記憶力もモラルもない。善悪の区別がつかない人間に悪意は発生しない。歴史を知らないから戦前に回帰しようもない。恥を知らない。言っていることは支離滅裂だが、整合性がないことは気にならない。中心は空っぽ。そこが安倍の最大の強さだろう。たこ八郎のノーガード戦法みたいなものだ。そして、中身がない人間は担がれやすい。  ナチスにも一貫したイデオロギーはなかった。情報機関は常に攻撃の対象を用意し、社会に鬱積する不満やルサンチマンをコントロールする。大衆と権力機構の直結。20世紀以降の「悪」は純粋な大衆運動として発生する。  空気を醸成するためのテンプレートはあらかじめ用意される。「安倍さん以外に誰がいるのか」「野党よりはマシ」「批判するなら対案を示せ」「上から目線だ」。ネトウヨがこれに飛びつき拡散させる。ちなみにネトウヨは「右翼」ではない。単に日々の生活の不満を解消するために、あらかじめ用意された「敵」を叩くことで充足している情報弱者にすぎない。  安倍政権が引き起こした一連の惨状を、日本特有の政治の脆弱性の問題と捉えるか、近代大衆社会が必然的に行き着く崩壊への過程と捉えるかは重要だが、私が見る限りその両方だと思う。前者は戦前戦中戦後を貫く日本人の「改革幻想」や選挙制度についての議論で説明できるし、後者は国際社会が近代の建前を放棄し、露骨な生存競争に突入したことで理解できる。  いずれにせよ、こうした中で、わが国は食いものにされている。  対米、対ロシア、対韓国、対中国、対北朝鮮……。すべて外交で失敗しているのに、安倍信者の脳内では「外交の安倍」ということになっているらしい。たしかに海外では安倍の評価は高い。当たり前だ。安倍の存在によって利益を得ている国がケチをつけるわけがない。プーチンにとってもトランプにとっても、北朝鮮にとっても中国にとっても、安倍政権が続いていたほうが都合がいいのだ。  結局、負けたのはわれわれ日本人である。  北海道のある大学教授が「このままでは国は滅びる」と言っていたが、状況認識が甘い。日本はすでに滅びているのだ。これから日本人は、不道徳な政権を放置してきたツケを払うことになるだろう。 <文/適菜収> てきなおさむ●1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。大衆社会論から政治論まで幅広く執筆活動を展開。近著に『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか』(講談社+α新書)他、『日本をダメにしたB層の研究』『日本を救うC層の研究』(ともに講談社)『バカを治す』(フォレスト出版)など多数。山崎行太郎氏との対談本に『エセ保守が日本を滅ぼす』(K&Kプレス)も好評発売中
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