シリア代表を応援する子ども
そして2017年9月6日、サウジアラビアで活躍していたエースのオマル・ソーマもついに、最終戦に間に合うように代表復帰し、敵地イランに乗り込んだ。そのイランに先制するも追いつかれ、逆転を許してしまう。
2-1でロスタイムに入ると、オマル・ソーマが裏に走り込み、右サイドにぬけるとキーパーと1対1になって、また抜きシュートで同点に持ち込み、引き分けに持ち込んだ。その結果、ウズベキスタンを抜いて3位になり、オーストラリアとのプレーオフに駒を進めたのだ。中継をしていたシリアのコメンテーターは感極まり泣きだしてしまった。
反体制派からは、フラース・ハーティブやオマル・ソーマを裏切り者と非難する声もあったが、ハリッドのような若者が大多数だったと思う。「ワールドカップ初出場」という夢はかなわなかったが、オーストラリアとのプレーオフでもシリアは魅せた。世界中に、「あのシリアがここまで戦った」という感動と称賛が与えられた。
今回のアジアカップにもシリアに期待が集まった。昨年12月、マージッド君というヨルダンにいるシリア難民の子どもを支援してほしいといわれた。病名は、再生不良性貧血で、明日骨髄移植するのでアンマンの大学病院に入院してるという。病院の建物はかなり老朽化している。
国立病院なので、費用が安いのか、民族衣装を着た貧しそうな患者が多くいた。建物がぼろくても、ヨルダンで一番レベルの高い大学だから、きっと先生は優秀なんだろう。
集中治療室にいると聞いていたが、普通の病室の前にいきなりパーティションが置いてあって間違えて人が入ってこないようになっているだけだ。正直この病院、大丈夫かなと思ってしまった。隣には最先端の技術と設備を備えたキングフセインがんセンターがあるが、骨髄移植は100,000JD(日本円で1600万円)かかってしまう。
ここだと60,000 JD。それでも日本円で970万円になる。マーゼン君は、お父さんを心臓発作でなくし母に連れらえて、2013年にヨルダンで7人の兄弟姉妹と一緒に難民生活を送っている。親戚たちに支えられて生きながらえている。湾岸諸国で働く親戚が20,000JD(320万円)を支払ってくれてとりあえず移植手術をすることが決まった。
お兄さんの骨髄ドナーとなったクサイ君
どう考えても、残りの650万円を工面するのは並大抵ではない。治療半ばで放り出されることはないのだろうか?看護師が言うには「それは、ありません。治療は最後まで終わらせます。しかし、お金を払ってもらわないと、病院から出れません」。「身代金か?」つまりは人質のようなものだ。
翌日、骨髄移植は無事に終わった。
ドナーの弟のクサイ君から骨髄を採取するのにかかったのは1100ドル。このお金を払わない限り、クサイ君も病院から返してもらえないとのこと。
「まるで刑務所みたい」
とりあえず、クサイ君を解放するために1100ドルをシリア難民支援の予算から、払った。