アジアカップで盛り上がるドバイの町
UAEで行われている、4年に一度のサッカーアジアカップが中東で盛り上がっている。日本のテレビは日本代表の試合ばかりしか放送しないが、それぞれの国にはそれぞれのドラマがある。
シリア人にとってサッカーは国民的スポーツだ。しかし、内戦が始まってからは、「サッカー? アサド政権のプロパガンダだ!」と距離を取るシリア人もいる。バッシャール・アサド大統領の戦争責任を問い、抗議のために代表を去った選手も数名いた。
シリア難民が大量にヨーロッパを目指した2015年11月13日、パリで同時多発テロが起きた。ドイツ代表とフランス代表のサッカー親善試合が行われている最中のできごとだった。1名はイドリブ出身のシリア人であるとされ、難民としてギリシャレロス島経由で入国したらしいということだった。
カフェで働く子供
11月16日、翌日に行われるワールドカップの一次予選シンガポールvsシリア戦を前に、両チームの監督の記者会見がシンガポールのホテルで行われた。シンガポールの代表監督はドイツ人のベルント・シュタンゲだった。
テロが起きた時、彼の子どもたちが試合を見ていたという。「家族はとてもナーバスになっている」と会見で語った。一方、シリアの代表監督だったファジョル・イブラヒムは、テロを激しく非難した。アサド大統領の写真がプリントされたTシャツを着て「アサド大統領は、世界のためにテロと戦っている」と述べ、両監督はがっちりと握手したが、アサド大統領のTシャツは、顰蹙を買ったのは言うまでもない。
*シュタンゲは今回のアジアカップでシリアの監督になったが、1,2戦で勝てず、最終戦を前に解任され、3戦目のオーストラリア戦はファジョルが指揮を執ることになった。
ドバイのカフェで応援するシリア人労働者
2013年5月、イラクのアルビルで、シリアの警察クラブとイラクのアルビルSCが、ACLカップで対戦したことがあった。故郷を追われたシリア難民たちもたくさん見に来ていた。シリア警察は完全にアウェイであり、まさによりによって警察クラブだから、名前だけで、「人権蹂躙、弾圧」のシンボル。ともかく何をしてもブーイングが起きる。選手たちはやりにくそうだった。1点目をアルビルが入れると大歓声が起きた。シリア警察が1点を返すと、大ブーイング。そして2点目をアルビルが取り、歓声は頂点に達した。
その後シリア警察クラブが追いつくと、ブーイングはさらに激しくなる。延長に入り、3点目をシリアが入れる。さらに4点目が入ってしまった。するといつしかブーイングは、拍手に代わっていた。
ゲームが終わり、勝利をチームメートだけで喜ぶシリアの選手たちには、筆者も感動したのだった。しかし、故郷を終われたシリア難民に試合の感想を求めると、「アサドの警察なんか糞食らえだ!」と吐き捨てて帰っていく人もいた。
彼は、アルビルクラブのサポータだったわけでもなく、ただ、政治的な背景からシリア警察がコテンパンにやられることを期待していたのかもしれない。難民キャンプで、警察クラブじゃなくてシリア代表とイラクが戦ったらどっちを応援するのか?と聞いたら「シリアに決まっている」とみな即答した。
シリア代表は、ワールドカップ予選では、目覚ましい活躍を見せた。ダラアは、反体制派の拠点となり、政府軍の激しい攻撃を受けている。そんなダラアから避難し、ヨルダンの病院でがんと闘っている16歳のハリッドは「体制派、反体制派とか関係なく、サッカーはシリアを応援する。フィラース・ハティーブという選手は反体制派で、チームを去ったけど戻ってきたんだ。僕はシリアの選手すべてが好きなんだ!」といって大喜びだった。シリア代表に夢を託していた。