また、キューバ自体にも問題がある。1959年1月1日にカストロ兄弟によって遂行されたキューバ革命も今年で60周年を迎えるが、全てが旧態依然で伸展はない。新たなビジネスが発展するような下地になっていないのである。
60年が経過したが、国家指導者はこれまで僅か3人だけである。フィデル・カストロ、ラウル・カストロそして昨年からミゲル・ディアス・カネルだけである。独裁国家であるが故に一人の指導者が長期政権を維持できるのである。
ミゲル・ディアス・カネルにしても、彼はカストロ兄弟に忠実な下僕的な人物で、彼によってキューバが広く民主化に移行して行く可能性はない。2016年にオバマ前大統領がキューバを訪問した時も、ディアス・カネルは「これはキューバ革命を破壊させようとしている米国の試みだ」と言って、オバマの国交正常化へのイニシアティブを批判したほどである。そのような発言をした人物が民主化に向かう指導的なイニシアティブを取れるはずがない。(参照:「
DW」)
ジャーナリストでキューバ出身のヨアニ・サンチェスが「ドイツ・ヴェレ紙」を介して「キューバはこの60年の間、到達できもしないユートピアの中で生活し続けて来た」と指摘している。
60年前にカストロ兄弟によって謳われた理想が今も存続しているのである。例えば、「機会の創出と市民の自由」をこの兄弟は挙げていたが、60年経過した今、「政府の権威の乱用の前に市民は沈黙を余儀なくさせられている」と彼女は指摘している。
更に彼女は、「経済面では農業、砂糖の生産、観光業、資源開発とどれも後退している」と述べ、ブラジルとの間でキューバ人医師の派遣契約が破棄されて、3億ドル(330億円)余りの収入も消滅したことも挙げている。(参照:「
El Diario de Hoy」)
キューバは今も共産党以外の政党は認められておらず、政府への批判は厳禁。現行の政治社会システムが改革される可能性もない。勿論、報道に自由はない。
現行のままのキューバでは外国との本格的なビジネスを発展させる機会はない。市民の間で物不足は続き、一方の政府は相変わらず財政難にこれからも絶えて行かねばならないのである。
結局、キューバはまた旧ソ連で現ロシアに依存せざるを得なくなるであろう。何しろ、頼りにしていたベネズエラが崩壊寸前にあるからである。
<文/白石和幸 photo by
ISORauscht via wikimedia commons(CC BY-SA 4.0)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身