レーダー照射問題、「千載一遇の好機」を逃したかもしれない「強い意向」

「イルミネーター」照射はなぜ重大なのか?

 ここで、射撃統制電探やイルミネーターなど、馴染みのない言葉が並び、報道もそれによって混乱していますので、簡単に解説します。  艦船用の電探は、航海用電探、対水上見張り電探、対空見張り電探、三次元電探、射撃管制電探、イルミネーターにおおきく分けられます。対水上見張り電探、対空見張り電探は三次元電探で兼ねることもあります。  本稿では、広開土大王が搭載している航海用電探と対空捜索用二次元電探、三次元電探、射撃管制(統制)電探、イルミネーターについて簡単に説明します。 1)航海用電探  ごく一般に見られるプレジャーボートから漁船、商船、軍艦などで水上見張りに広く使われる電探。広開土大王には、デウ社SPS-95Kが搭載されている。広い範囲をある程度の遠距離まで検知できる。対象は船や陸地。Cバンド、Sバンド、Xバンド、Kバンドなど(*1)、製品によって周波数帯域は異なっている。  SPS-95Kは、Cバンド(4~8GHz)で探知距離250km、ビーム幅は横1.5°。Cバンドを利用すると、イルミネーターや射撃電探に使われるXバンドと干渉しない。ただし、Cバンドは対空見張り電探などで混み合っている場合が多い。(参照:“Daewoo SPS-95K” Radar Basics 2)対空捜索用二次元電探  広開土大王が搭載しているのはレイセオン社のAN/SPS-49。遠距離の対空捜索用電探。Lバンド(0.5~1.5GHz)を使用し、周波数がやや低いために長距離捜索に好適。探知距離は1~460kmであり、方位と距離がわかるが、角度(高度)はわからない。対水上捜索にも使える。ビーム幅は、横3.3°、縦11°。

photo by Peripitus via Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

3)三次元電探   かつて対空電探は、捜索用の二次元電探で方位と距離を、高角測定電探で高度を測定していたが、これらを統合したものが三次元電探。  広開土大王が搭載しているのは、タレス・ネーデルランド社のMW-08で、Cバンド(4~8GHz)を使用している。探知距離は、27kmと短いが、マッハ4までの航空機を追跡でき、二目標への対水上射撃指揮も可能*。従って韓国国防部は、MW-08も射撃管制電探(射撃統制電探)としている(参照:*合衆国国防技術センター(DTIC)のドキュメント)。ビーム幅は、横2°、縦12°。

photo by U.S. Navy (public domain)

4)射撃管制電探(韓国国防部は射撃統制電探と呼称)  砲やミサイルの照準を合わせるための電探。一般に高い周波数の電波を使い、比較的近距離の対象を精密に測定、追尾する。広開土大王が搭載しているのは、タレス・ネーデルランド社のSTIR-180(※2)で、Xバンド(8~12GHz)とKバンド(18~26GHz)を使用している。電波を二波使うのは、シークラッター(波による鏡面反射)による虚像やノイズを除去するため。高い周波数の電波をピンポイントで照射するため、指向性の高いパラボラアンテナを用いる。結果、ビーム幅はXバンドで1.4°、Kバンドで0.3°とたいへんに鋭い。この電探で照射するということは交戦意志を示すことになるので、使用はROEにより制限されている。
STIR180

STIR-180 収束性の高いパラボラアンテナをつかっている。 photo by 玄史生 via wikimedia comons (CC BY-SA 3.0)

5)イルミネーター(韓国国防部は、射撃追跡電探と呼称)  スタンダードミサイル(SM-1,SM-2)やシー・スパローなどの艦対空ミサイルで多く採用されているセミアクティブ・ホーミングミサイルの誘導用電波投影機。目標に向けて強力な電波(連続波:CW)を精密・追尾照射し、目標から反射した電波を目指してミサイルが飛翔する。母艦に強力な電波照射と追尾を任せるので、ミサイルのシーカー(目標探索装置)を小型化できる。  目標は、強力な連続波で電波を浴びせられるので、イルミネーターによる照射は特徴的に検知し得る。広開土大王は、イルミネーターを射撃統制電探であるSTIR-180で兼用している。  イルミネーターによる照射は、ミサイルの発射を意味するので極めて危険であり、被照射機はあらゆる手段を使って妨害、逃走を試みることになる。具体的にはECMや機体の限界いっぱいの激しい機動、全速離脱。  イルミネーターによる照射は、極めて強い交戦意思を示すことになり、使用はROEにより厳しく制限されている。 ※1:XバンドやCバンドのようにマイクロ波の周波数帯はアルファベットで分類されるが、歴史的経緯から3種類の分類法があり、現在はIEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)によるものとEU/NATOによるものが併存している。困ったことに、同じアルファベットで異なる周波数帯を示すことがあるため、たいへんに混乱しやすい。(参照:“電波の周波数による分類 – Wikipedia” ) ※2:STIRシステムは、EOTSという光学システムも搭載している。タレス社のSTIR 1.2 EO Mk2のカタログをみると、3基の光学カメラが設置されていることが分かる。説明によるとカラーズームカメラ、赤外線カメラ、白黒カメラ、レーザー測距儀が搭載されている。
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