しかし、せっかく目標設定をしても、それを達成するためには今の習慣を変える精神的体力が必要となる。そのため、なかなか続かない人が多いのも事実だ。セミナーや本で時間管理術などいろいろな目標達成のテクニックを学ぶことができるが、いざやってみるとなかなか続かない。
その原因は自分で「自分はこういう人間である」と定義してしまっているからである。基本的に人間は変化を嫌うものであり、慣れによる居心地のいい環境や習慣を変えることを嫌う。この居心地のいい環境や習慣は「コンフォート・ゾーン」と呼ばれる。
目標達成は快適な「コンフォート・ゾーン」から抜け出す行為であるため、自分を律して理性的な意思決定を求められことで、通常よりも意志力を消費する。長期的に自分を変えるのが難しいのは、そういった理由があるのだ。
なかでも夜の習慣を変えるというのは、既に一日かけて意志力を使い切ったあとである可能性が高いため、なおさら難しくなる。
そこで筆者が提案したいのは、心理学者シャド・ヘルムステッターの著書『なぜ、あの人はうまくいくのか』に書かれている「自己説得」というテクニックだ。
ヘルムステッター氏は、そもそも新しい習慣が身につかない理由は、脳内の古いプログラム(思考パターン)が残っているからであるとしている。
古いプログラムが脳内に残っているため、まったく別の新しいプログラム(思考パターンや仕事術)をインストールしたところで、古いプログラムが邪魔をして新しいプログラムに仕事をさせてくれない。新しいプログラムを脳にインストールするには、古いプログラムを書き換える必要があるというのだ。
ここで、「自己説得」という技術を活用する。「自己説得」とは、およそ「自己暗示」と同じものである。
目標設定においては、「難易度が高い問題にも前向きに取り組める人間になる」「年収が1000万円を超えられるようになる」のような、これから叶える「未来形」が一般的である。
しかし、ヘルムステッター氏の「自己説得」においては「未来形」ではなく「現在進行形」の目標設定を行う。つまり、自分はすでにその状態になっていると自己暗示をかけるのである。たとえば上記の例で言うと、「自分は難易度が高い問題にも前向きに取り組める人間だ」や「自分の年収は1000万円だ」などである。
これが、古いプログラムを上書きする方法だ。自分の目標達成をしている古いプログラムを自己暗示で上書きするのである。
これを一日3~4回自分に言い聞かせることを3週間続けると、自分の行動や判断基準が自己暗示したものに沿うよう変化するのだという。
つまり、自己暗示で「コンフォート・ゾーン」をずらしているというわけだ。そもそも自分のコンフォート・ゾーンはすでにそこにあるかのように自己暗示をかけている。そうすることによって、新しい習慣を始めようとしている人でも習慣を変えることによる抵抗感やストレスを減らすことができるのである。
自己暗示を続けることで、それに見合った行動を起こすことに対して、腰が軽くなる。また反対に自己暗示に反する行動には違和感を感じるようになる。本書には「自己説得」のさまざまな例文が記載されているため、具体的な自己説得の文章について知りたい場合は、ぜひご一読いただきたい。
もし、今年から新しい目標や仕事術を始めようとしている場合は、この「自己説得」と組み合わせることで、新しい習慣を効率的に身につけてみてはいかがだろうか。
【参考資料】
「オプト、「今年の目標に関する調査」を実施」株式会社オプト(2015)
『なぜ、あの人はうまくいくのか』シャド・ヘルムステッター
【山本マサヤ】
心理戦略コンサルタント。MENSA会員。心理学を使って「人・企業の可能性を広げる」ためのコンサルティングやセミナーを各所で開催。これまで数百人に対して仕事やプライベートで使える心理学のテクニックについてレクチャーしてきた。また、メンタリズムという心理学とマジックを融合した心理誘導や読心術のエンターテインメントショーも行う。クラウドワークスの「トップランナー100人」、Amebaが認定する芸能人・著名インフルエンサー100人に選出
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