長野県では選択肢を提示されたことで、高断熱の家を選ぶ家庭が8割に
こうした義務づけをした結果、全国的には一定程度の基準以上に断熱された住宅(※国が定める、次世代省エネルギー基準レベルの断熱性能)を選ぶ家庭が5割以下なのに対して、長野県では8割にも及んだという。それまでは初期投資の金額しか意識していなかったが、選択肢を提示されたことで消費者の行動が変わった一例だ。
長野県の政策は、他の自治体にも広がりつつあるという。田中さんは、この取り組みの意義を以下のように説明する。
「どのような住宅であっても、ランニングコストとして必ず支出することになるのが光熱費です。ですから建築費だけでなく、光熱費も見なければ住宅のトータルコストは分かりません。トータルコストを最小化することが、住民にとってのメリットであるはずです。
そのため長野県では光熱費が事前に分かるよう、新たな制度を導入しました。しかも光熱費の安い住宅は、ヒートショックを防ぐ室内環境も安い光熱費で実現できます」
新築住宅だけではない。既存住宅やマンションをリフォームする際にも、意識を変えて対策を取ることで、快適で健康にも良い環境をつくることはできる。それは、ランニングコストの削減など費用面でも確実にメリットをもたらす。
暖かい住宅で暮らすことは、多少の投資は必要ではあるが、一般で思われているほどハードルの高いことではない。多くの人がそのような意識を持ち消費行動を変えることで、寒い家や、エネルギーの浪費、あるいはヒートショックのない社会を実現することになるはずだ。
◆ガマンしない省エネ 第10回
<文/高橋真樹>
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。環境・エネルギー問題など持続可能性をテーマに、国内外を精力的に取材。2017年より取材の過程で出会ったエコハウスに暮らし始める。自然エネルギーによるまちづくりを描いたドキュメンタリー映画
『おだやかな革命』(渡辺智史監督・2018年公開)ではアドバイザーを務める。著書に『
ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)『
ぼくの村は壁で囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)ほか多数。