自転車操業地獄に陥る、都市の地主たち<競売事例から見える世界23>

土地イメージ

CORA / PIXTA(ピクスタ)

 差し押さえ・不動産執行の現場に地主さんが債務者として登場する事例が増えつつあると以前の記事でご紹介したばかりだが、先日の事例は広大な農地を持つ地主さん。このような売却の難しい農地を抱える地主さんが倒れていくことは想像に難くないが、実は資産価値の高い土地を抱える「都市型の地主さん」たちもバタバタと破綻に陥っている。  農家型の地主さん、都市型の地主さんどちらにも共通して言えることは、「簡単に執行を終わらせてくれない」ということ。最後の最後まで執行を遅らせようとあの手この手を使ってくる。  先祖代々守り続けた土地を自分の代で取り上げられてしまうという事実は、どうしても受け入れ難いらしい。 「もう払ったから!確認してみろよ!確認してくれって!」  執行官も仕方なしに渋々確認作業を行うのだが、このやり取りをボケ~っとデジャヴのように眺めてしまうのは、もうかれこれ債務者からの虚偽報告による確認作業もこれで4回目になるからだ。 「確認取れませんでしたから執行続けさせてもらいますね」  この報告の後には大抵「そんなはずはない」「明日にも払えるよ」と続くのだが、今回も伝統芸能のように同じイントネーションで同じフレーズが続けられた。  もう歌舞伎で言う大向うから「待ってました!」と掛け声を送りたい気分。もちろん彼の家系を追っているわけではないので、彼が「何代目!」に当たるのかは見当もつかないが。

資産価値減少を認めたくない地主

 さて、このように同じ都市型地主さんの元へ何度も通うようになってしまうのには理由がある。  抱えている不動産という資産価値が右肩下がりに目減りしていることを理解できず、元凶であるはずの自身の資金繰りや収支バランスを破綻に陥るまで見直すことが出来なかったためだ。  さらに地主さんの場合は「広い土地」という切り分け可能な資産があるため、これらが細切れにされ、「今回はなんとか競売でしのげたが、また数カ月後に違う競売が」「次も競売でしのげたが、また次の債権者が競売をかけてきた」と次々に競売で土地が削られていくという寸法。  ハッキリ言って、どこかで早急に全ての土地を手放し資金繰りを見直すことができれば、多くは回避できたはずなのだが、先手を打つ形で土地を手放せた地主さんには出会ったことがない――。  これまで「土地さえあればなんとでもなる」という時代が長らく続いていたが、今後はそうとも言えない時代がやってくる。  計算上では2025年にも東京の人口が減少に転じ、2040年には全国の空き家率が43%に達する。さらには、多くの市区町村が消滅の危機に瀕するというほどの長期下降トレンドが予測されている。
次のページ
2042年にピークを迎える、定期借地権問題
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会