般若の背中にラッパーたちは夢を見た。伝説のMCバトルを振り返る「ダメリーマン成り上がり道」#12

ラッパーたちの心を動かした般若のバトル

 そんな般若が1回戦で当たったのは、のちに『フリースタイルダンジョン』で共演することになるDOTAMA。当時は無名の彼に、「あんた、『根こそぎ』以降いいアルバム出せてないと思います!」とディスられて、般若の怒りに火がついた。 「そのあたりの話は『何者でもない』に詳しく書かれていますね。3回戦で当たったTKda黒ぶちには、『……え? この子なに? メチャクチャすごいんですけど……』とマジで驚いたらしくて。MCバトルのレベルが、数年の間に急激に上がっていたことを物語るエピソードなんですよ」  高いスキルを持ったうえで、般若を食いにきたTKda黒ぶちとの魂のぶつかり合いに、会場は大いに熱くなった。本気でぶつかって来た相手には、それを上回る本気を見せつけてブチ負かす……。この大会で見せた般若の戦いぶりは、ラスボスとして戦う『フリースタイルダンジョン』と同様のものだった。  さらにUMB2008では、準々決勝の相手が同じ妄走族のメンバーのMASARU。決勝の相手は高校の同級生で、活動を共にしていたRUMIという奇跡的な展開も。般若はそうした面々を次々と破って優勝を飾った。 「優勝したあとに般若さんがフロアに降りてきて、みんなから声かけられていたんですよ。俺も近くに来たときに目が合って、『ありがとうございました』と言いました。思わず口から出た言葉で、『何でありがとう、だったんだろう?』と考えたんですけど、『あなたのラップで俺は本気になることができました。そういう気持ちにさせてくれてありがとうございました』っていう意味だったんだな……と。晋平さん(晋平太)もUMB2008の般若さんを見て、翌年のUMBに出たって言っていましたし、このときの般若さんのバトルで熱くなったラッパーはほかにもいると思うんですよ」  そして般若のバトルを見て熱い気持ちになったMC正社員は、すぐに行動を起こした。 「当時は『自分はUMBなんかに出ちゃいけない』と思ってたんですけど、その東京予選を見たあとで、『やっぱり出場しよう』と決めて。地元の新潟まで、車で2時間くらいかけて一人で帰って、予選に出場しました。1回戦で負けましたけどね(笑)。でも、そのあとに戦極MCBATTLEをはじめて、今も年間30本の大会を開催する熱を持ち続けていられるのは、やっぱり般若さんのおかげなんです」  その後の人生でも、節目節目で般若から様々な影響を受けてきたというMC正社員。次回はその知られざる逸話を紹介する。 <構成/古澤誠一郎> 【MC正社員】戦極MCBATTLE主催。自らもラッパーとしてバトルに参戦していたが、運営を中心に活動するようになり、現在のフリースタイルブームの土台を築く
戦極MCBATTLE主催。自らもラッパーとしてバトルに参戦していたが、運営を中心に活動するようになり、現在のフリースタイルブームの土台を築く
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