また、そもそもこうした鉄道の“駅名”は、外野からあれこれ言うほどに簡単なものではないという。ある鉄道事業者の関係者は、「駅名ほど気を使うものはない」と打ち明ける。
「新駅の開業は鉄道事業者以上に地域にとって一大事。駅名いかんによっては地域のアピールにもつながりますから、極めて大きな関心事なのです。駅とその周辺がすべてひとつの地域に含まれているなら、その地名を使えばいいので問題は少ない。ただ、それでも全国に同じ地名がいくつもあることは珍しくなく、すでに駅名に使われていることもある。また、駅や線路を挟んで2つの地名が隣接していると、駅名の命名は一筋縄ではいきません」
今回の「高輪ゲートウェイ駅」でも駅の東側は港区芝浦、西側は港区高輪。高輪駅でも芝浦駅でも、どちらにしても地域に波紋を呼ぶ可能性がある。過去の例でも、東京メトロ小竹向原駅のように小竹町と向原にまたがって駅が設けられ、沿線との調整の末に両者の名前を合体させた「小竹向原」と名づけられた例もある。
「こうした合成駅名の場合もどちらを先にするかで揉めることもしばしばです。また、駅の立地によっては近隣の施設の名前をつけるよう要望されることもあります。『あしかがフラワーパーク駅』もそのパターンのひとつですが、このように公共性の強い施設なら問題なくても私企業の施設だったら他の近隣施設から不満が出る可能性がある。こうしたさまざまなな事情を勘案して、誰にとってもベターな駅名をつけることが求められるのです」(前出の鉄道関係者)
私企業の施設名を採用した駅名が、「高輪ゲートウェイ」直後に新たに発表された。東京メトロ日比谷線の新駅で、その名も「虎ノ門ヒルズ駅」だ。東京メトロの駅のなかでは、昭和初期の東京地下鉄道時代に開業した「三越前駅」以来となる民間施設を採った駅名。
ただ、これは虎ノ門ヒルズなどと一体となった開発によって誕生する新駅ということもあって、多くの人が納得する駅名と言えるだろう。
ともあれ、新駅の駅名ではこうした多くのハードルをクリアしなければならないのだ。そう考えれば、「高輪ゲートウェイ」にもそれなりの苦労があったのかもしれない。
「ただ、いろいろな事情で駅名が制約されるのはわかるのですが、だったら一般公募などしなければよかったのでは? とは思いますね。強いて言えば、“高輪”か“芝浦”かという点では、一般投票1位だから高輪を選んだという大義名分がたつ。でもその程度のものですし、これだけ批判されるんだったら、最初からJRが独断で名づければいいのでは?」(ライター・N氏)
これまでも武蔵野線の「越谷レイクタウン駅」のように、カタカナ混じりの駅名に当初“センスなさすぎ”と批判が集まった例も多い。空港でも中部国際空港の愛称「セントレア」もすいぶんと批判されたものだ。それでもいつしかすっかり馴染んでしまった。非難轟々の「高輪ゲートウェイ駅」も、開業してしばらくすれば慣れてしまうものなのかもしれない。
<取材・文/境正雄>