そんな中で基幹産業を支える原油の採油と精油で政権が変わるたびに注目されるのが1938年から2014年まで100%国営石油企業だったペメックス(Pemex)である。アムロはその採油は国内消費だけにして輸出をしないという方針を表明している。埋蔵量に限度がある原油を次の世代にまで残しておく必要があるというのである。
しかも、投資不足で設備の遅れなどからこの10年間で採油量は37%減少しているというのである。ぺメックスは年間200億ドル(2兆2000億円)の原油を輸出している。この輸出金額に代わる輸出品目はなく、アムロの国内消費だけにするという策に反対しているのはカライバ・アソシアドスの分析家ラムセス・ペックである。
問題は、現在国内消費分の45%しか精油できない状態で、そのため国内で消費する石油の75%を輸入に依存している状態を改善せねばならない。そのためには新しい採油口と新たに精油所も必要。新しい精油所の建設に80億ドル(8800億円)と6か所の精油所の改善に20億ドル(2200億円)を投資する予定だとしている。(参照:「
El Confidencial」)
アムロへの国民からの期待が如何に強いものかを示すのに、メキシコ連邦議会の上院と下院でアムロの政党MORENOに連携する意向を固めている2党労働党(PT)と社会結集党員(PES)の議席を加えて下院で307議席(定員500)、上院68議席(定員128)という両院で過半数の議席を占めることになったのである。このように大統領の政治運営を容易にした連邦議会はこれまで一度あっただけだという。
しかも、犯罪を取り締まる上で重要なシナロア州、メキシコシティー、プエブラ州を含め、他2州でもMORENAが最大の議席数を確保することになったのである。(参照:「
Sin Embargo」
また、犯罪の撲滅により積極的に取り組むべく、アムロは就任6日前に陸軍と海軍の指揮官らと会合を持ち犯罪の撲滅に軍隊が重要なカギを握っていることを伝えたという。大統領就任前に、このような会合は異例だという。(参照:「
El Pais」)
メキシコという国は隣国に米国が存在していることから、これまでも米国の顔色を見ながらの政治に専心し、北米へのラテンアメリカの玄関であるという立場を忘れた政治をする傾向にある。アムロは北米の右派政治とは考え方をことにする左派である。
それを反映してか、アムロが大統領選挙で勝利する可能性が強くなっていた頃に米国はそれを非常に気にしてさぐりを入れていた。そのようなこともあって、トランプ大統領は7月に「アムロと私は良い関係をもつことができるように思う」と発言したこともある。
ラテンアメリカにおえるメキシコの存在がより注目を集めるようになると思われる。
<文/白石和幸 photo by
Eneas De Troya via flickr(CC BY 2.0)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身