NYで公判中のメキシコの麻薬王、出廷予定だった証人が心臓発作で急死

急死を伝える「Vanguardia」紙

エル・アチェ急死を伝える「Vanguardia」紙

 世界の麻薬の密売を支配した麻薬王ホアキン・グスマン・ロエラ(エル・チャポ)の公判がニューヨークのブルックリン地区連邦裁判所で行われているが(参照:麻薬王「エル・チャポ」の公判がNYで開始。最も費用がかかる裁判に)、この裁判に召喚される証人保護も重要視されている。検察官に誘導されてエル・チャポに不利な証言をする証人がエル・チャポに雇われた者によって危害を加えられることを避ける為である。  ところが、エル・チャポのライバルだった人物が証人喚問に応じる少し前に心臓発作で死亡するという出来事が起きた。この死亡に今のところ不審は持たれていないというが……。

ライバルカルテルのボスが、証人喚問で出廷直前に急死

 公判でエル・チャポを弁護している3人の弁護士のひとりエドワルド・バラレソはツイートで「エル・チャポの公判でニューヨークで証人喚問に応じる為に送還するという通知を受けた時にその人物は心臓発作を起こした」と語っている。(参照:「Vanguardia」)  その人物とはヘクトル・ベルトゥラン・レイバ(エル・アチェ)のことで、彼はエル・チャポの「シナロア」のライバルのカルテル「ベルトゥラン・レイバ」の親分だった。  彼はメキシコのアルティプラノ刑務所に服役中で、午後3時頃に左胸部に強い痛みを感じたという。回復しないので、病院に早速搬送したが午後4時に死亡した。(参照:「Infobae」)  彼の死亡に今のところ不審は持たれていない。しかし、彼が証人喚問で出廷する前に心臓発作で亡くなったというのは偶然にしては余りにも出来すぎているのである。薬物を飲んだのか、飲まされたのかという疑問も湧く。

当初は良好だった急死した親分とエルチャポの組織だが……

 この2つのカルテル、ベルトゥラン・レイバとシナロアとは当初良好な関係にあった。1993年にエル・チャポが逮捕されて収監された時も、ベルトゥラン・レイバは現金が詰まったトランクをエル・チャポの元に届くように手配したこともある。刑務所内で彼に協力するように警備員や囚人をお金で買収するためである。2001年にエル・チャポが脱獄する時もベルトゥラン・レイバは協力した。  当時、この二つのカルテルの仲が良かったことから、ベルトゥラン・レイバの5人兄弟の中で、一番若いアルフレドはエル・チャポの従妹のひとりと結婚もしている。(参照:「Infobae」)  ところが、2008年1月にアルフレドが捕まった。エル・チャポが彼の息子イバン・アルチバルドを刑務所から保釈させるのを条件に警察にベルトゥラン・レイバについての情報を流したからだと推測されている。これを切っ掛けに両者の関係が悪化。(参照:「Infobae」)  同年8月にはその報復だとして、エル・チャポの22歳の息子エドガー・グスマン・ロペスが暗殺されたのである。勿論、ベルトゥラン・レイバ兄弟による仕業と見られた。(参照:「Infobae」)

凶悪なカルテルを率いていた、急死した男

 ベルトゥラン・レイバは1994年から2000年まで最も強力なカルテルのひとつとされていた。彼らの犯行は荒く、見せしめに殺害した者の首を観光地などの橋に吊っていた程だという。  シナロアと不仲になって以来、彼らは カルテル「ロス・セタス」、「デル・ゴルフォ」と協力するようになった。勿論、この二つのカルテルはシナロアのライバルである。  ベルトゥラン・レイバ5人兄弟が殺害されたり収監されたりしたあと、今回急死したエル・アチェが2010年から2016年に逮捕されるまでカルテルを指揮していたのである。ケタロ州に居を構え、表向きは古物商兼画商を装っていたという。  2014年に彼がグアナフアト州のレストランで海鮮料理を食べている時に逮捕された。その時、彼は銃の一発も撃つこともなく逮捕に抵抗しなかったという。  メキシコの関係当局によって、彼を見つけた人には賞金として3000万ペソ(1億6500万円)が提供されていたほど重要人物となっていたのである。  ベルトゥラン・レイバは今もシナロアと同様にメキシコのカルテルとして存在している。 <文/白石和幸> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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