アメリカで存在感を増す反トランプの草の根運動。日本のリベラルも学ぶべきその手法とは?

「運動の中心は女性有権者」インディヴィジブル運動の関係者は語る

indivisible movementのサイト

 インディヴィジブル運動について、バージニア州シャーロッツビルにおける運動の共同主催者をつとめるデービッド・シンガーマン氏に話を聞いた。シンガーマン氏は地元の大学で教鞭を取る傍ら、シャーロッツビル周辺のインディヴィジブル運動の参加者を取りまとめている。首都ワシントンに隣接するバージニア州は、ワシントンに近い州北部では民主党支持者が圧倒的に多いが、それ以外の地域は共和党支持者が多いことで知られている。シャーロッツビルは、ちょうど州の真ん中に位置する町だ。  インディヴィジブル運動の特徴については前述したが、シンガーマン氏が最初に語ったのは、ソーシャルメディアの持つ力が彼の予想をはるかに超えたものであったことだった。 「運動を始めたグリーンバーグとレヴィンは、どのようにすれば地元議員にこちらの思いを聞いてもらえるのか、(聞いてもらえなかった場合には)自分たちの望む政策を実現してくれる候補者を次の選挙で当選させるために、個々のメンバーが何をすべきかを簡潔にまとめたハンドブックを作り、それをグーグルドキュメントで誰もが閲覧できるようにしました。ここから戦略を学んだ私たちは、昨年1月末にシャーロッツビルで、トランプ政権の政策を不安視する有権者らを集めた集会を初めて企画し、フェイスブックで参加者を募ることにしました。100人が参加すれば大成功と思っていたら、集会には500人以上がやってきました。あんなに驚いたのは生まれて初めてでした」  その存在に注目が集まるのと比例して、約10年前にアメリカ各地で大きな保守系市民運動となったティーパーティー運動との比較が繰り返されるようになったが、シンガーマン氏はティーパーティーとインディヴィジブルには決定的な違いが存在すると主張する。 「ティーパーティーとの比較は避けられないものだと考えています。草の根運動という点では似ていますが、インディヴィジブルではこれまで政治集会などに参加した経験が全くない人の参加が多いのが特徴です。運動の中心になっているのは、30歳から70歳までの女性有権者で、当初はオバマケア(医療保険制度改革)をトランプ政権によって廃止されることを防ぐために運動に参加した人が多かったのです」  ティーパーティーと比較した際に、最も大きな違いとなるのが運営資金に関するものだと、シンガーマン氏は語る。ネット上では世界的に名の知れた投資家が秘密裏に資金援助しているという陰謀論が囁かれているが、これは大きな誤りであると、シンガーマン氏は強調した。 「ジョージ・ソロス氏がインディヴィジブル運動の陰のパトロンだという話を、私自身も頻繁に耳にしますが、事実とは大きく異なります。私自身も、他の運営メンバーも、誰一人として1セントも貰っていないことを断言できますよ。メンバーはみんな仕事を持っており、インディヴィジブル運動には無償で参加しているのです。一方のティーパーティーはどうでしょうか。ティーパーティー運動が始まった頃、複数の右派団体が運動の核となるメンバー達に資金援助していたことはすでに明らかになっています。ティーパーティーは当初は小さな政府による国家運営を目標に掲げていましたが、やがて陰謀論を展開し、黒人大統領の誕生に露骨な嫌悪感を示すようになります。彼らがアメリカの分断を望んでいたのとは逆に、我々は共生社会としてのアメリカの再建を目指しているのです」  今月6日に行われた中間選挙で民主党は議会上院で過半数を制することはできなかったが、多くの州で善戦し、米メディアは「ブルーウェーブ(青い波)」という表現で躍進を伝えた。青は民主党のイメージカラーだ。バージニア州では、上院議員選挙で民主党のティム・ケイン上院議員が共和党候補に60万票近くの差を付けて大勝し、再選を果たした。11議席をかけて民主・共和の両党が激しい選挙戦を展開した下院議員選挙では大きなサプライズが生まれた。選挙前は民主党議員が4人、共和党議員が7人であったが、6日の選挙後にこの数字はそっくりそのまま入れ替わった。民主党は獲得議席を3つ増やし、共和党は逆に3つ失った。  バージニア州の下院議員選挙では、民主党候補に流れた20万票近くの浮動票の存在が大きかったと考えられており、その原動力となったのがインディヴィジブル運動だったという見方が定説となっている。シンガーマン氏は、この流れが2年後の大統領選挙にも影響を与えるだろうと確信している。 「もともと政治運動に参加したことのなかった私のような有権者が、インディヴィジブルという運動が誕生したことで、同じ思いを持つ他の有権者やグループと繋がることが可能になりました。中間選挙で学んだことを上手く活かせることができれば、我々の運動は2年後には現在よりもより効果的なものになるでしょう」 <取材・文/仲野博文 TwitterID:@hirofuminakano photo by Master Steve Rapport via flickr (CC BY 2.0)> なかのひろふみ●ジャーナリスト。米エマーソン大学でジャーナリズムの修士号を取得。ワシントンDCで日本の報道機関に勤務後、フリーに転身。2008年より東京を拠点に活動を開始。ラジオでもJ-Wave「Jam The World」のナビゲーターを約4年務め、英BBC系のニュースラジオでは日本から情報を発信。欧米の軍事・犯罪・人種問題を得意とする。ホームページ hirofuminakano.com
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