プラズマエンジンをNASAと共同開発するコスタリカの零細ベンチャー企業が、水素エネルギーの未来を拓く

50ドルだけ握りしめて渡米。猛勉強でMITに入り宇宙飛行士となった英雄

アドアストラ社

アドアストラ社。社員数十数人の零細企業だが、世界最先端のプラズマロケットを開発している

 人口500万人の小国コスタリカで、「誰もが認める国の英雄」はそう多くない。その数少ない1人こそ、宇宙飛行士のフランクリン・チャンだ。  一言も英語を喋ることができない状態で渡米した時、彼のポケットには50ドルしかなかったという。そこから猛勉強を重ね、1977年には名門マサチューセッツ工科大学、すなわちMITでプラズマ物理学を研究して博士号を取る。  NASAに入った彼はついに1981年、コスタリカ人初の宇宙飛行士となり、1600時間の宇宙滞在を果たした。コスタリカ版アメリカン・ドリームを体現した彼の名を知らないコスタリカ人は、まずいない。

コスタリカの会社が、世界最先端のプラズマエンジンをNASAと共同開発へ

VISIMR

アドアストラ社がNASAと共同開発しているVISIMR(比推力可変型プラズマ推進機)。有人火星飛行の夢が広がる

 宇宙飛行士になることは、彼の子どもの頃からの夢だった。その夢を果たした彼はNASAを2005年にリタイアし、地元コスタリカのグアナカステ州にアドアストラ社を立ち上げる。宇宙ロケットのプラズマエンジンをNASAと共同開発するためだ。  プラズマエンジンは、長距離宇宙飛行を主な目的とした推進器である。物質は、温度の上昇につれて個体→液体→気体と変化し、それにつれて体積も増える。さらに温度が上がるとプラズマとなり、その体積も大幅に増える。  通常のロケットエンジンは、個体や液体を燃焼によって爆発的に気化させ、その気体が噴射される反作用で推進力を得る。しかし、たとえばその原理で火星まで行こうとすると、とてつもない量の燃料を必要とし、現実的ではなくなる。そのため、たとえば火星まで通常のロケットを飛ばす場合には、地球の重力圏を脱出したあとはできるだけエンジンを使わず、慣性飛行によって燃料をセーブするということになる。  プラズマの利点は、気体よりも密度がさらに小さいため、必要な原燃料の体積がはるかに小さくなることだ。アドアストラ社が開発しているVASIMR(比推力可変型プラズマ推進機)は、既存のプラズマエンジンの非力さを解決する打開策として期待されている。これが実用化できれば、宇宙空間での移動速度が飛躍的に上昇し、有人火星飛行まで視野に入るとまで言われる、とんでもないシロモノなのだ。
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プラズマだけでは終わらない! 水素エネルギーの開発へ
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