米集団移民増加の遠因は米国社会の差別が生んだ犯罪集団にあった

強制送還先の本国で活動を活発化。結果、移民増大

 それぞれ3か国に送還させられた彼らは今度は現地の住民を相手に恐喝、強奪、麻薬密売、誘拐といった犯罪を犯しているのである。  例えば、M-13が最も活発に活動しているエル・サルバドルでは彼らの勢力はおよそ10万人いると見られている。しかも、彼らを支援して協力している人たちが100万人いるというのである。人口が750万人の国でこの人数は市民生活を脅かすに十分である。  それを反映させて、同国では2015年は6670人が殺害されている。同年のグアテマラは5677人、ホンジュラスは5148人がそれぞれ殺害されている。このような危険な事態に包まれていることも、中米の市民が米国に向けて移民しようと決める要因のひとつになっているのである。(参照:「El Confidencial」)  その一方で、この危険な状態を改善すべく政治家もそれに対抗して色々な手段を講じている。例えば、ホンジュラスの場合、2012年は10万人当たり86人が殺害されていたのが、5年が経過した2017年には42人とほぼ半数に減少している。(参照:「El Confidencial」)  殺害件数が半減したのは2014年に大統領に就任したフアン・オルランド・エルナンデスによる対策が功を奏しているからである。  彼は司法と癒着して2017年に憲法上の規定を無視させて再選されたという問題のある政治家ではあるが、彼が最初に取った策のひとつが軍を介入させて、警察ではなく軍警察に都市の治安を任せたことであった。  恐喝して払わない者は殺害するという過激なM-13やB18を、軍隊は必要とあらば武力でもって攻撃していったのである。  また、恐喝から得る没収金以外に彼らの重要な収入源として麻薬の密売がある。それを撲滅させるべく軍隊はカルテルに武力で打撃を与えたりもしている。南米で生産されて米国に送られるコカインもその90%がホンジュラスが中継地となっているので軍隊はそのルートを壊滅させるのである。例えば、ホンジュラスでカルテルが築いた小型機が離着陸できる飛行場を軍隊が破壊して利用できなくさせている。  更に、新しく重装警備された刑務所を2か所建設。暴力組織のリーダーを収監させて完全に外部との接触ができないようにした。暴力組織の根城となっていた都市サン・ペドロ・スラにあった刑務所を閉めて囚人を新しい刑務所に移すのに3000人の軍人と警察を動員したという。そして、収監される期間も非人道的と思えるような条件のもとでより長く勾留させるようにした。  さらに、カルテルに癒着していた4400人の警官を解雇もした。  このような努力が実って2017年には10万人当たり42人が殺害されたということで、2012年の86人と比較して半減したのである。それは同年に3791人が殺害されたことを意味してそれでも事態は深刻ではあるが、例えば、2015年の5148人殺害されたのと比較して意味ある成果となっている。(参照:「El Confidencial」)
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問題の根源は「貧困」
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