――現在、岡部さんは保護活動から身を引き、日本の監理団体に勤めています。
岡部:今でも個別の相談・対応は続けていますが、個人的な支援活動には限界があったのです。技能実習生の問題は技能実習制度そのものから生まれたものです。本当の意味で問題を解決するためには、制度の内側に入って制度自体を改善する努力をした方がいいと判断したのです。
繰り返しますが、最大の問題は借金です。日本は途上国の労働者を働かせたい。彼らも日本で働きたい。しかし、そのために必要な費用は全て彼らが借金している。ここから様々な問題が起きているのです。だから答えはシンプルです。
日本政府、日本企業が海外から労働者を呼びたいならば、自分たちで必要経費を負担して呼べばいい。特に日本企業が実習生を大事にしないのは自分でお金を出していないからです。
実習生を大事にしなければ雇用主が損をする仕組みを作る必要があります。
私はそれを技能実習制度の介護分野で実現しようとしています。ベトナムでは介護産業が発展していないので、日本で介護技能を実習しても意味がありません。現時点で介護分野の実習生にベトナム人は一人もいません。それでも介護業界がベトナム人に来てほしいなら、そのために必要なお金は自分で出してください、ということです。
――最後に読者に伝えたいことはありますか。
岡部:私は元ベトナム難民の立場から実習生を支援し、ベトナムで送り出し団体を立ち上げ、現在は監理団体の一員として受け入れ企業と関っています。全ての立場を経験した上で思うのは、この問題は深刻だが、しかし、やむを得ない事情もあるということです。
ある実習生(30歳男性)が実習を満了して帰国した際、私は実家まで同行しました。彼の故郷はベトナム北部の山岳地帯で、家にはトイレもなく川で洗濯しているような貧しい地域でした。実家に帰った時、彼は3年ぶりに再会した4歳になる一人娘を抱き締めながら号泣していました。そんなに寂しいなら、なぜ日本へ行ったのか。彼は「それ以外に家族を養う方法がないからだ」と答えました。実習生や留学生の問題の根源は、
途上国の貧困なのです。日本の技能実習制度や留学制度に問題があったとしても、一概に否定することはできない。
しかし、こんな現状を放っておいていいはずはない。私が24歳で男性の実習生を入管へ連れて行って「この子、実習先で殴られたんです」と訴えた時、職員は「なんで我慢しなかったのか」と言いました。自分の子供が同じ目にあっても同じことが言えるのか。
実習生の多くは18~25歳の若者です。私にとって彼らは自分の子供のような存在です。実際、彼らは誰かの子供です。今でもハノイ空港では毎晩親子が抱き合いながら泣いています。羽田空港では毎朝目を腫らした若者が「着いたよ」とメールを送っています。そんな子たちが不当に傷つけられていいはずがない。彼らは「安い労働力」ではなく一人の人間であり誰かの子供なのです。しかし彼らの大半は傷つけられ、日本が嫌いになって帰っていきます。日本で育ったベトナム人の一人として、彼らがベトナムに帰った時「日本は良い国だった」「日本人は優しかった」と言ってもらえるようにしたいと願っています。
(聞き手・構成 杉原悠人)
提供元/月刊日本編集部
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