「インセル」によるヨガ教室銃撃は、トランプ時代を象徴する事件か

仲野博文

事件現場となったヨガ教室が入る建物の外に立つ警官。容疑者は本文中にある2014年にカリフォルニア州で起きた銃乱射事件の容疑者に共感を寄せていたという(Photo by Mark Wallheiser/Getty Images)

 米南部フロリダ州タラハシーのヨガ教室で11月2日、レッスン参加者を装って教室に入った男が無差別銃撃を開始。教室内にいた7人が死傷し、乱射を行った40歳の男はその場で自殺している。アメリカでは決して珍しくない無差別乱射だが、自ら命を絶った容疑者が「不本意な禁欲主義者」を意味する「インセル」と呼ばれるタイプの人物で、女性と上手く付き合えない原因が女性たちにあると逆恨みして犯行に及んでいた。中間選挙の直前に発生したタラハシーの事件だが、インセルに限らず、政治信条や宗教、人種といった部分で自らと異なる他人に対し、暴力に訴えるケースがアメリカでは増加している。

あふれだした「コップの水」。ヘイトクライムは増加傾向に

 コップに水がギリギリまで入った状態を想像してほしい。表面張力によって、コップの水が溢れ出すことはないが、その上に水を数滴たらすとどうなるかは明白だ。トランプ政権が発足してから、来年1月で2年となる。トランプ政権の前半を有権者がどのように評価するかに注目が集まった11月6日の中間選挙の結果については後述するが、トランプ大統領の過激な言動や、敵と味方をはっきりと区別するスタイルは、多くのアメリカ人に影響を与えた。

 難民申請者を含む移民や、イスラム教徒、中南米出身者、LGBTの人々、民主・共和両党の支持者…。思想の違い、人種の違い、信仰の違い、性の違いなど、現在のアメリカでは他者とのちょっとした違いが暴力事件や嫌がらせに発展するケースが珍しくない。

 異なるバックグラウンドや思想を持った人々が、数百年かけて作り上げたアメリカは、間違いなく世界最大の移民国家だ。アメリカ社会に溶け込んで、アメリカ人らしく生きていくことは移民にとってのゴールの1つであり、「アメリカ化」が賞賛されることによって、結果的に異なる背景を持つ人々が隣人として暮らしていけるという側面もあった。

 しかし、大統領選挙期間中にもセクハラ発言や中南米出身者、イスラム教徒に対する暴言を繰り返してきたトランプ大統領を、一定数のアメリカ人が支持した。前述のコップの水は、人種問題や経済格差、宗教差別といった問題が山積しながらも、ポリティカル・コレクトネスが叫ばれ、ダイバーシティーが推奨されることによって、表面張力にも似た力で耐え続けてきたアメリカ社会そのものである。そこにトランプ大統領の数々の発言や政策が、新たな水滴として何度も落とされた。コップに入った水が溢れ出したことは言うまでもない。

 アメリカ社会に蔓延する不寛容さは数字にも表れている。カリフォルニア州立大学の「憎悪・過激主義研究センター」が5月に発表した調査報告によると、アメリカの10大都市における憎悪犯罪は4年連続で増加しており、2017年だけを見ても前年度よりも12パーセント以上も増えていた。憎悪犯罪の標的は各都市によって異なり、同報告によると、ニューヨークではユダヤ系が、ロサンゼルスではゲイが、ボストンでは黒人が最も多くヘイトクライムの標的にされている。

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「リア充女性」に憎悪を抱く男性
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