ボルソナロがエルサレムに大使館を移すことに強い関心があるのは、今回の選挙ではキリスト教の福音派で、その中でも数百万人の信者を数えるネオペンテコステ派が彼を強く支持していた。しかも彼の3人目の婦人(彼は2度離婚)は福音派で、2016年にヨルダン川で彼も洗礼も受けている。
福音派はエルサレムにキリストが再来するといった信仰を持っており、イスラエルがエルサレムに首都を構えるというのは福音派の願望なのである。(参照:「
El Periodico」)
ボルソナロは選挙で公約した通り、大使館をエルサレムに移すことは福音派に応える為だという考えを持っている。この点は、同じく福音派の支持を受けて勝利したトランプ大統領と類似している。
また、ボルソナロはルラとルセフとによる社会主義政権を嫌悪しており、パレスチナを国家と見做すこの二人の元大統領の外交に終止符と打ちたいと考えたようである。
パレスチナを国家と承認したのはルラ、そしてルセフはイスラエル政府が任命した在ブラジル大使ダニー・ダヤンの入国を拒否したことがある。彼がパレスチナの地に入植活動を繰り返しているその元リーダーだったというのが拒否した理由であった。(参照:「
El Pais」)
それに対して、親イスラエル派のボルソナロは選挙戦中から「大統領に選出された暁には、ブラジリアのパレスチナ大使館を閉鎖させる」と明言していた。(参照:「
HispanTV」)
ジェトゥリオ・バルガス財団の政治学教授ギジェルモ・カサロエスは「大使館をエルサレムに移すという極端な策を取らなくても、米国そしてイスラエルに接近することは十分に可能だ」と述べている。この考えに同調しているのは下院議員で外交委員会のメンバーリカルド・フェラコで、彼は「ボルソナロはそれがもたらす影響を十分に考慮することなく公約してしまった」と語っている。(参照:「
El Periodico」)
一方のネタニャフ首相は「ボルソナロの勝利はブラジルとイスラエルの間の関係強化によって熱い友好をもたらすことになろう」と語り、彼の側近のひとりは「首相は(ボルソナロの大統領)就任式にブラジルを訪問することになるであろう」とAFP通信に伝えたそうだ。これが実現すれば、イスラエルの首相がブラジルを訪問するのは初めてとなるそうだ。(参照:「
El Espectador」)
あと50日余りでボルソナロが大統領に就任する。彼が選挙選中に公約していた外交をその通り展開させるようになると、多くの専門家は危険を伴うことになると指摘し、この50年間維持して来たブラジルの外交と矛盾したものになり、アラブ諸国との商取引に弊害をもたらすようになると指摘している。(参照:「
ABC」)
ボルソナロは軍人としての経験は深いが、外交は全くの素人。素人外交というの常に弊害をもたらすことになるのが鉄則である。
<文/白石和幸 photo by
Senado Federal via flickr(CC BY 2.0)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身