「アベ政治を許さない」に抱く違和感。この国に「正常な民主主義」を取り戻すのに必要なこと

「保守の文脈から語れるリベラル」の不在

 安倍総理という人はまともに議論もできないわ、身内は贔屓するわ、宰相としてのろくでもなさは群を抜いているが、少なくとも、自分に何が求められているかを察知する能力には長けている。  安倍総理は、自分がリベラルであると心から信じ込んで話すことが出来る。例えば、少子化対策や、男女共同参画など(成果を上げているかは別にして)、自らと異なる立場の人間に対して響くような政策を語ることができる。  それは、安倍総理のコミュニケーターとしての強みである。自民党は田中角栄以来、そのようにして野党の支持層を切り崩してきた。  翻って、「保守の文脈から語れるリベラル」が必要とも言える。  立憲民主党の枝野代表は度々自らを保守と語っている。このように「異なる立場においても語れる」ことが、ますます求められてくるのではないだろうか。  自らを保守と規定する人たちに対して、丁寧に安倍総理の問題点を説明していくことこそ、政治活動であり、政治的なパフォーマンスとして有効足り得るのではないか、と私は思うし、その意味で「アベ政治を許さない」は、果たして有効なのか疑問が残る。

新しい政治的コミュニケーションのあり方を

「アベ政治を許さない」は、安保法制の強行採決という時代において発生したコミュニケーションでだ。  しかし、3年が経ち、多くの人の記憶から安保法制の記憶が薄れてしまった今、そこから汲み取れるのは「彼らは怒っているのだ」という点だけだ。  もちろん、これらは、クローズドなコミュニティにおいては一定程度効果があるのかもしれない。しかしながら、全くそれらの事情を斟酌しない他者に対しては、効果的なパフォーマンスとは言えないだろう。  私が代案として提案していきたいものがある。それは「8時間働けばまともに暮らせる社会へ」だ。  これは、参院の神奈川選挙区に出馬されていたあさか由香候補のスローガンだったと思うのだが、日本共産党さん全体で使われているようだ。  これはとにかくわかりやすいし、誰もが共感できるスローガンだし、どの野党も使えばいいんじゃないかと思う。著作権とかの問題があるのかはよくわからないけど。  でも、別にどの産別でもこれに反対する理由はないはずだ。  また、度々ご紹介している法政大学上西教授による「国会パブリックビューイング」も素晴らしい試みだと思う。
国会PV

法政大学上西充子教授による国会PVも、ファクトを可視化する活動だ

 我々は、ハイコンテクストなコミュニケーションに逃げることがなく、なぜおかしいと思うのか、なぜ間違っているのかと思うのかを説明し続けなくてはいけない。  だからこそ、国会で何が起こっているかをメディアが伝えなくてはいけないし、メディアが伝えないなら、国会を見ている奇特な人が筆を執るべきだと思う。  そういうわけで、私も国会開会中には、国会で何が起こっているかについて記事を書いたりしているわけだ。 「アベ政治を許さない」はイデオロギーかもしれないが、公文書改ざんはファクトである。そして、国家にとって重要なファクトを伝えることには、右も左もない。  そして、結局の所、そういったファクトを伝え続けることでしか、この国に正常な民主主義は戻らない、と考えている。   <文/平河エリ@読む国会 Twitter ID:@yomu_kokkai) ひらかわえり●国会をわかりやすく解説するメディア「読む国会」を運営する政治ブロガー。
Twitter ID:@yomu_kokkai ひらかわえり●国会をわかりやすく解説するメディア「読む国会」を運営する政治ブロガー。
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