一方、ルッチオ・カラチオロがさらに言及しているのは、イタリア政府はEUの戦闘機ユーロファイターよりも米国の戦闘機F-35の買い付けに関心を示しているということだ。
イレネ・サビオはこのカラチオロの指摘に加えて、シチリア島のニシューミのMOUS通信基地は米国そしてNATOに重要であるということを挙げ、この2つの点こそがトランプ政権にとって無視できないことであると指摘している。
そしてもうひとつ、彼女がレポートの中で触れているのは、イタリアも参加して進めているカスピ海からの原油をイタリアまで搬送するTAPパイプラインの建設についてである。このパイプラインはロシアからの原油の依存を減少させることに繋がるということである。これもトランプ政権にとっては望むことなのだ。
要するに、米国政府は、イタリア政権のリーダーはサルビニだと見て、サルビニのポピュリズム的なイタリアの主張がEUの加盟国との関係を弱くして、距離を置くようになっているのはEUをさらに弱体化させることに繋がるとトランプ政権は見ていると彼女は指摘している。
彼女の考えを補足するかのように、前出のベンハミン・アルバレスも2019年度のイタリアの予算案にEU委員会とイタリア政府との間で見解に違いが出て対立しているのも、EUとイタリアとの間の軋轢を深めることになる、と同
D.W.紙で言及している。それもEUの団結を邪魔しようとしているトランプ政権にとって望むところである。
ただ、米国の制裁による弊害は思った以上に甚大だった。イレネ・サビオのリポートによれば、ワシントンのジオポリティクス分析家のアレサンドロ・ポリティが「(180日間の)延長としたのは来年5月のEU議会選挙が実施されるまで続くということで、同盟と五つ星を支援した経済的に影響力のある人たちがこの選挙のあとも怒りを持ち続けるようになることだ」と指摘しているのだ。
その怒りとは、2015年から2017年までにイタリアとイランの取引は15億ドル(1650億円)から50億ドル(5500億円)に伸び、EUの中でイタリアがイランとの取引においてトップになっていたことが、この制裁によって水の泡となってしまうからである。
2015年にイランへの制裁が解除となった時に、イランのロウハニ大統領はEUの最初の訪問先をローマから始めたのであった。それだけ両国の関係は進展していたのである。その関係もあって両国の間で200億ユーロ(2兆6000億円)以上の投資の合意も交わされていた。それが、今回の米国がイランに科した制裁で水の泡と化してしまうのであるとアレサンドロ・ポリティが説明していることにも彼女は触れている。
トランプ政権は同盟と五つ星の連立政権によってEUの牙城を崩して欲しいと望み、その一方で制裁の影響でイタリアはイランとの取引進展の可能性を失ってしまった。今回の8か国の中にイタリアを加えたのはその償いの意味があってのトランプ政権からのイタリア連立政権への配慮だというのである。しかし、サビオはEUはイランとのこれまでの取引の30%程度しか実現できないであろうと結論している
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身