急浮上した入管法改正。その国会での政府答弁の問題点を国会PVが緊急指摘

事実上の「単純労働の受け入れ」を否定できない政府

 例えば、問題点その1である「単純労働の受け入れ」としか思えない点だ。  そもそも現行の制度では「単純労働」とされる分野での外国人就労は原則禁止とされてきた。この改正案で言うところの「特定技能1号」は名前を変えただけで、まさしく「単純労働」に当たるように思われるものだ。  この改正案は、単純労働の受け入れを認めるということなのかという質問をする立憲民主党の蓮舫議員に対して、山下法務大臣は以下のようなやり取りを展開している。(20181105・衆議院予算委員会) 「単純労働の受け入れを認めるものなのか?」という問いに対して、山下貴司法務大臣は、「一定の専門性、技能を有する外国人を即戦力として入れるもの」であり「例えば特段の技術、技能、知識又は経験を必要としない労働に従事する活動を行う外国人を受け入れる政策については、これを取ることは考えておりません」と返答している。  しかし、何が「一定の専門性、技能」なり「特段の技術、技能、知識又は経験」で、それらを要する労働がどのようなことについては、「業所管省庁と緊密に連携を、連絡を取り合った上で今後決めていくということになると思います」と言うのだ。  これらの動画を受けて、全労連の雇用・労働法制局長である伊藤圭一氏は次のように解説してくれた。 「新しく在留資格を作り、多くの外国人労働者を受け入れるということですが、どういう分野に何人入れるのかの見通しを最初に問われて然るべき話です。しかし、そもそも『単純労働なのか?』という問いに、『相当程度の技能』などという言葉でなんとなくその場を逃げている。なにが『相当程度の技能・技術・知識』なのかも決まっていないんです。とにかく在留資格というものを認めて、それが認められたあとに省令で細かいところを決めていくんだというわけです。ところが我々からすれば逆の話で、どういう分野に何人入れるのかを決めもせずに闇雲に入れるのはおかしな話です。国会では枠組みだけ議論させておいて、細かいところは国民の目の届かない省庁の中、あるいは業界の要望を聞いて決めてしまうのかということがわかってきたということです。枠組みだけ作って、細かいところは政府任せというのはいかにも非民主的なやり方だと言えます」  また、人手不足の産業に入れることになると述べた山下法務大臣に、人手不足の実態と需給バランスを示してくれと要求する蓮舫議員に対し、根本匠厚生労働大臣は有効求人倍率を示すだけにとどまったことについても問題があると指摘する。 「なにをもって人手不足というのか、大きな論点なのに何も答えられない。何が大きな論点かというと、人手不足ならそこに外国人労働者を受け入れるのかという点です。いま人手不足の産業といえば、低賃金で劣悪な労働条件の仕事に人が来ないと言われているんです。これまで、政府は賃金を上げるとか待遇改善を言ってきたわけですが、今回の改正はそれをせずに低い賃金・劣悪な労働条件のまま受け入れることに道を開いてしまうということです。人手不足はなぜ生じているのか? その根本的な原因である低賃金・劣悪な労働条件を変えると言っていた産業が、今回の在留資格の話が出てから一切待遇改善の話をせずに、とにかく人を入れてくれという話だけに走っているところが非常に怖いところです。このままで行けば、日本の労働市場は低すぎる労働条件を上げるどころか、そこに低賃金の条件でも働くという人を入れることで、国内の労働市場全体に悪影響を及ぼすという話に広がりかねません」

業種も人数も「後で決める」の異常さ

 さらに問題点の2である業種も人数も決まっていない点については、長妻昭議員の質問の様子を上映して説明された。(20181105・衆議院予算委員会)  受け入れの議員が何人くらい増えるのか?という質問に対し、冒頭で人数に対し答えずに「移民の定義」の説明で逃げるといういつもどおりの「質問に誠実を答えない」答弁をした山下法務大臣。終始人数には答えず、「必要なものを、真に必要なものを入れるという前提の上で、どれだけ入れるのかということを精査しているということでございます。」と答え、さらに受け入れの上限についてだけは「今回は数値として上限を設けるということは考えておりません」と回答している。  前出の伊藤氏はこの動画を受けて次のように解説する。 「何人入れるのか、わからないのであればわからないと答えればいいのに、それを答えもしない。審議時間を空費させることを狙った答弁だと言えます。配布資料に書かれた法案の趣旨を延々と繰り返すだけ。最後は委員長に『簡潔に答えなさい』と叱られているわけです。与党の答弁の悪い典型例だと言えます。延々と時間を稼いで答えは『わからない』。『いつわかるんだ』と聞かれたら『法案作成までに鋭意努力する』とだけ答えています。結局、この法案を通す上で重要な『何人入れるのか』などの見通しについてはちゃんと示すかどうかもわからない。こういう状況がわかった答弁でしたね。上限についても『実態に即して判断する』とあたかも現実的で高度な判断を装いつつも、実は中身が何もない、具体的なことを言っていない。やはり皆がわかりやすい、しっかりした基準を何一つ設けていないことがわかった答弁だったと思います」  また、ここで注目したいのは、山下法務大臣が「労働者の需給バランスに、人手不足の状況に応じた数の外国人材が受け入れられることになるものと考えています。そして、これは、業所管庁の求めに応じて、受入れの一時停止、これも考えております」と回答している点だ。これについては、最後のほうで紹介する共産党の小池晃議員の質疑と照らし合わせると実に矛盾に満ちた答弁であることがよく分かる。
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「現代の奴隷制」はそのまま放置
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