黒豚のスライスの実物。メニューとはやや違うが、本格的に豚しゃぶもできる
和食ブームに乗って大手企業のほか、個人の料理人も日本からタイにやってきて飲食店を開業している。ジェトロ(日本貿易振興機構)が今年9月13日に『2018年度タイ国日本食レストラン店舗数調査』を発表した。これによれば、タイ国内にある和食レストランの店舗数は3004店になるという。これだけたくさんの店があることから、いい店・悪い店の淘汰がいよいよ始まっていくと見られる。
とはいえ、この3000店のうち日本人経営、あるいは日系企業の店はごく一部で、タイ人経営店も少なくない。その中では特に「しゃぶしゃぶ」店が多く見られる。郊外の日本人が来るような場所ではなくても「SHABU」といった文字が見られる。
タイ語は英語のように単語の変化がない。強調するときには同じ単語を2回繰り返す。例えば、たくさん=マークで、「コープクン・マーク」と言うととても感謝していることを表す。これをもっと感謝していることを示すには「コープクン・マークマーク」と言えばいい。
そのためもあってか、「しゃぶしゃぶ」についてもタイ人は2回繰り返して呼ばない。多くがタイ語発音に従うと「シャーブー」としか言わない。とにかく「しゃぶ」と言うだけで、ほとんどのタイ人がそれがどんな料理なのか想像がつくほどに知名度が高いものなのだ。
これは元からタイ料理に似たようなものがあったからだ。「スキ」と呼ばれる料理で、日本人には一般的に「タイスキ」と呼ばれる鍋料理になる。タイは常夏の国とはいえ様々な鍋料理が存在する。その中の代表格がこの「タイスキ」である。
「タイスキ」は20年前は日本料理のひとつとカウントされていた。インスタント麺も日本料理と認識されていたような時代で、「すき焼き」と勘違いしてつけられたと言われる。実際タイ料理の「スキ」は中国の火鍋が原型で、主に中華系の飲食店で食べられていたところ、ある店が「すき焼き」をヒントにした料理ということにして、「スキ」という名称で売り出した。
諸説あってなにが正しいかわからないが、単純に「しゃぶしゃぶ」と「すき焼き」を混同した可能性もあるし、「スキ」を名乗りだしたころに坂本九の「上を向いて歩こう」が欧米で「スキヤキ・ソング」という名称で売れたことにあやかった可能性もある。
いずれにしても日本はまったく関係がなかったのに、勝手に日本料理のひとつと言われる「タイスキ」。それが近年になって急速に日本化しつつある。わりと足を運びやすくなったので、タイに来た際はチェーン店でいいので、ぜひとも寄っていただきたい。