アジアを狙う東急のまちづくり戦略。「田園都市」がまるごと輸出で東急バスも

ベトナム版「田園都市」では「東急バス」も運行!

 東急グループの東南アジアにおける総合都市開発の「代表格」といえるのが、タイにも近いベトナム南部・ホーチミン都市圏の郊外にあたるビンズン省でおこなわれている「東急ビンズンガーデンシティ」事業だ。  この事業は東急グループが自然豊かなホーチミンの郊外地域に約110ヘクタールの敷地に1000億円規模を投じてマンション「SORAガーデンズ」、都市公園「SORA PARK」、分譲住宅などを建設する大型都市開発。東急が手掛けるのは住宅開発事業のみに留まらず、ガーデンシティ内で商業施設「hikari」を運営するほか、そこを拠点としてガーデン内外への路線バス「KAZEシャトル」も運行している。 地域の中心となる場所に交通結節点を造り、そこに商業施設や公園を建設するというまちづくりの手法はまさに「東急のお家芸」だ。  このKAZEシャトルを運行するのは東急バスとベトナム企業「ベカメックスIDC」との合弁で2014年に設立された「ベカメックス東急バス」で、運賃は従来の現地バスの約2倍(日本円で50~60円程度)ながら、日本国内の東急バスと同様に時刻表どおりの高頻度運行をおこなっているとあって好評を博しているという。
hikari

「東急ビンズンガーデンシティ」の商業施設「hikari」(同社ニュースリリースより)。

 ところで、東急グループが東南アジアで「路線バス事業」に参入した例があるならば、「鉄道事業への参入はないのか?」と気になる読者もいるであろう。  東急電鉄の星野専務によると、残念ながらタイ、そして東南アジアなど海外地域での鉄道事業への新規参入に関しては採算性の面から検討していないという。一方で、都市化と自動車の普及が急速に進む東南アジアでは、各地で新たな鉄道路線の建設や在来線の通勤輸送対応化がおこなわれており、なかでもJR東日本や住友商事は多くの鉄道新設事業への入札を行っている。こうした動きのなか、東急グループも「自社主導での鉄道運営はしない」としながらも、建築面での技術提供など何らかのかたちでの事業参画は行っていくとしており、今後はバスのみならず、東急グループの技術を活かした鉄道網が世界へと広がっていくことも期待したい。
ベカメックス東急バス

ベトナム・ビンズンを走る「ベカメックス東急バス」(同社ニュースリリースより)

 東急グループの前身となった不動産開発会社「田園都市株式会社」が設立されてから、今年でちょうど100年。最初の開通区間となった現在の目黒線の開通からは95年を迎える。  高度成長期に日本各地へと広がった「東急流」のまちづくりは、東南アジア各地、そして世界へと広がりを見せ、各国の市場に合わせるかたちで新たな発展を遂げようとしている。  近い将来、新たな「田園調布」が東南アジア各地に誕生しているかも知れない。 <取材・撮影・文/淡川雄太 若杉優貴(都市商業研究所)> 都市商業研究所 若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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