田中:欧州では、ビジネスパーソンがまったく違う職種にキャリアチェンジしているケースによく直面します。キャリアチェンジに対する抵抗感が低いのです。それも、コアな価値観は揺るがさずに、その延長線上でキャリアを考えている証左なのではないかと思えますね。プロジェクトマネジャーからワインの専門家、プログラマーからランニングコーチ、法律の大学講師が家業経営を兼ねるなど、千差万別です。「みんな違う」ということが前提で「これはこうではないといけない」という枠組みがあまりないのです。
山口:そのようなダイナミックなキャリア展開をしていくには、エネルギーが必要ですね。
田中:はい。彼らもキャリアチェンジの間に大学や専門機関に通って準備をしてはいます。しかし、多様なキャリア経験を積むということは、ある意味、自分がリセットされるということだと思います。それまでに積み上げてきた知識や経験が使えない可能性もあるでしょう。それでも、汎用スキルは必ず活きます。
山口:汎用スキルとは、「これを身につけておけば、ほかのスキルを発揮しやすくなる」という、コアスキルだと私は捉えています。コアスキルを身につけておけば、キャリア開発がしやすくなるということには、私も賛成です。
田中:当社でも、「TC転職」という社内公募制度を使って、他部署への社内転職にチャレンジする従業員が出てきています。コアスキルは、言ってみればビジネスにおける共通言語だと思います。それを身につけたうえで、自分はどんな付加価値を生みだし、どんな価値観を実現したいのかを考える。それが一人ひとりのキャリアを形作り、ひいては多様性のある組織や社会をつくっていくのではないでしょうか?
<対談を終えて>
「自分の価値観を大事にする」というと、「自分勝手な人」「協調性のない人」というように誤解されがちだ。しかし実は、自分の価値観をしっかりと認識している人は、他人の価値観を知ることにも関心があり、彼我の差を認識し、相手の価値観を尊重することに長けている人である。それは演習経験からもわかっていることだ。バケーションにより、チームを挙げてのワークライフバランスの実現も、自分の価値観を知り、他の人の価値観も尊重するという行動の現れなのだ。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第107回】
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『
クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある