田中:私が所属した企業では、バケーション取得には暗黙のルールがあって、取得時期を選択できる人に優先順位がありました。優先順位は、「子供がいる人」「パートナーがいる人」「独身者」の順です。
山口:各メンバーがワークライフバランスを実現するということを、チームを挙げて支援しているのですね。ワークライフバランスをとるという意識があるから、バケーション取得のための行動をとれるのか、バケーション取得という行動をとっているから、ワークライフバランスの意識が醸成されるのか……。田中さんは、どのように捉えていますか?
田中:社会全体にワークライフバランスは自分が意識してコントロールするものだという意識がある。だから、バケーション取得のための行動を取れるのだと思います。また、組織としてもワークライフバランスを考えるのは当然のことです。休み明けに同僚とお互いの休暇の話をしあうのはもちろん、顧客企業のご担当者とも、相手が新任の方であっても、まずバケーションの話で盛り上がって共通点を見つけたり、距離感を縮めたりしています。
山口:バケーションを取得するという行動が、意識の定着を図っている面もあるかもしれませんね。
トヨタコネクティッド株式会社 キャリア開発支援グループ グループマネジャー・田中倫子氏
山口:さて、フランスでのビジネス経験をふまえて、欧州のビジネスパーソンの行動から、学ぶことはありますか?
田中:まっさきに挙げたいことが、「自分自身の価値観を大切にしている」ということです。自分は何者で、何を大切にしていて、何が嬉しいのか? 何は妥協できるのかということを知ったうえで、仕事をしているんです。これは、自分の価値観に沿った仕事しかしないという意味では、まったくありません。逆に仕事のパフォーマンスを上げることに役立っているのです。一見して違う価値観のように見える仕事も、本人には意味があることなので、取り組みやすくなるということも言えるのではないでしょうか。
山口:自分の価値観を知っていれば、そこからズレているものも認識できるので、かえって取り組みやすくなるということですね。
田中:その仕事で自分のどんな価値観を実現したいのかということが明確なので、主体的に仕事に打ち込めます。当社でも、キャリア開発研修で価値観が明確になり、仕事に前向きに取り組むことができるようになったという声がありました。
山口:自分の価値観を知ることは、異なる価値観を持っている人への対応力を高めるためのコアスキルのように思います。