さらに、
与党は、国会での徹底的な議論を避ける傾向にあります。なぜならば、審議対象のほとんどが、与党了承済みの政府提出の議案で、徹底的な議論をすると、ボロを出してしまうおそれがあるからです。与党事前審査では、あくまで与党と支持団体への影響の視点で検討しているだけですので、全国民的な視点で議論されれば、問題点を露呈することもあり得るのです。消化試合の国会で、万一ひっくり返されることがあっては、国会対策委員会の大きなミスとなり、国対幹部の出世や権力レースに支障が出ます。
徹底議論の回避は、野党の質疑時間の制限だけでなく、
委員長の不適切な采配によっても助長されます。本来は、議案の問題点が明確になったり、答弁がいい加減だったり、関連情報が示されなかったりしたとき、委員長は、与野党の立場を超えて、答弁者に適切な対応をさせます。委員長が、議論を徹底しようと考えれば、小委員会を設置したり、参考人質疑の人数を増やしたり、現地視察したりすることもできます。
国会のもっとも
望ましいあり方は、与野党が議案を徹底的に議論した上で、合意に達することです。そのために、議案を修正することは望ましいことです。賛否に分かれて採決するのは、どうしても合意に達しないとき、最後の手段です。
与野党が合意に達するには、国会での議論や意見、情報を踏まえて、
政党と議員が、態度を変えることが不可欠です。誰もが賛否の態度を変える可能性をもった状態で、徹底的かつ理性的に議論することを「熟議」といいます。
しかし、少なくとも与党には、議案への態度(政府提出議案の賛成)を変える可能性がほぼありません。なぜならば、事前審査で了承し、党議拘束(逆らった場合、所属政党から反党行為として処分されます)が、国会提出前からかかっているからです。
現在の国会は、
政党や団体幹部に有利な方向へ、民意をデフォルメしています。とりわけ、与党やその支持団体の幹部の意図する方向へデフォルメしています。
その
元凶が、与党事前審査にあります。登山に例えれば、民意の集約について、9合目までを政党内部という不透明かつ非公式な場で行い、わずかな残りを、国会という公式の場で行うシステムです。
しかも、肝心の国会も、与野党の政党と関係する人々の意見だけが、俎上に乗りやすい場となっています。
多様な人々の意見が、見える状態で並べられていないのです。
【短期集中連載】なぜ政治へのあきらめが生まれるのか? 民意をデフォルメする国会5重の壁 第5回
<文/田中信一郎>
たなかしんいちろう●千葉商科大学特別客員准教授、博士(政治学)。著書に『
国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『
緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/
@TanakaShinsyu