持続可能な商売をするためには、「復元力」が必要だ

テーブルやカウンターは常にシンプルにしておく努力を(写真/小林正憲)

 14年間、ひとりぼっちでオーガニック・バー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」を営んできた。その間、俺はハサミを1個しか買ったことがない。アナタはこの14年間で、ハサミを何回買っただろうか? 家にハサミが何個あるだろうか? 今回は「復元力」について語りたい。

椅子や箸が整然と並んでいると乱雑に並んでいる店。第一印象、どっちがいい?

 アナタが、バーや居酒屋に入ったとする。その時、どちらが気持ちいいだろうか? A:椅子と箸が整然と並んでいる B:椅子と箸が乱雑  当然だがAの方が気持ちいいだろう。その理由がわかるだろうか。カウンターの椅子が、規則正しく間を空けて並んでいてカウンターの奥まで入れてあり、背もたれがカウンターと並行して一列に並んでいる。カウンターの箸も規則正しく並んで、一列に揃っている。そこに入ってきたお客さんは「この店はちゃんとお客さんを気持ち良くお迎えする心構えがある」と無意識に察知するのだ。  お客さんが誰もいないのに、Bのように椅子も箸も乱雑に並んでいたら、入ってきたお客さんは「なんだか、乱れているな~」と感じるに違いない。それが店の第一印象になる。居心地良さそうな店かそうでないか、無意識の中でインプットされる。次もこの店に来たいかもう来ないかの、判断基準にもなるだろう。  そんなの当たり前の話で、椅子やテーブルや箸を綺麗に置いている店がほとんどだ。だから逆に、それができていないとしたら致命的である。だが、立ち飲み屋のような安くて薄利多売の店なら、雑多なほうがいい場合もある。店内が適度に乱れているほうが、誰でも気軽に入りやすいからだ。「どんなお客さんに来てほしいか」という店主側の想いによる。  さて、店内に入ったお客さんは、綺麗に並んでいる箸や置物や椅子やテーブルの上を乱す。椅子を出して座り、箸を使い、料理を食べ、酒を飲み……当然のことだ。お帰りの際に綺麗に椅子をしまい、テーブルを拭いて新しい箸を綺麗に並べてくれるお客さんがいたら、逆になんだか不気味だ。「お金が払えないので、洗い物させてください……」なんて言われかねない! お客さんは店内を乱すものなのだ。

持続できるかできないか、それは「復元力」にかかっている

 そこで大切になってくるのが「復元力」。できるだけ早く元どおりに戻す力だ。どんなに忙しくても、復元することの優先順位を下げない。ちょっとした合間に元に戻す。例えば、注文に追われ調理に追われていても、オーダーのドリンクや料理を運んで厨房に引き返す時に椅子を元に戻すとか、飾り物の向きを戻すとか、トイレのスリッパの向きを揃えて戻すとか。それらを何気なしにするのだ。  そして手ぶらで厨房に戻らない。食べ終えているお皿や、飲み終わったコップや瓶を下げてくる。厨房の中に居ても、コンロに火を灯してフライパンを乗せて熱で温まるほんの10秒程度の間ですら、洗った皿を元に戻すとか、使った栓抜きを元あった場所に戻すとか、すべてが「復元力」に左右されると言える。  一人で店を回しているのだから、自分がやらなきゃ誰も元に戻しちゃくれない。誰も元に戻さなきゃ、店はどんどん乱れていく。開店時間には綺麗だった店の雰囲気も、夜が更けるにつれ猥雑になってしまうし、料理や酒の出るスピードもどんどん遅くなる。これでは、後から来るお客さんや、遅い時間に来るお客さんの第一印象が悪くなるし、サービスが低下する。そんな店が長続きするわけがない。
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「復元力」がもたらす波及効果
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※現在、一時的に「たまTSUKI」復活中。『ひとり飲食店講座』『髙坂にいじられナイト」など、イベント情報は以下をご参照ください。
https://ameblo.jp/smile-moonset/entry-12407904414.html
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