差別を禁じる法律の制定を訴えるプラカード
韓国第2の都市である釜山市の海雲台地区で、昨年に引き続き2回目となるLGBTのイベント「
釜山クィア・カルチャー・フェスティバル」が開催された。
近年、LGBTは世界的に広く認知されるようになり、各国で大規模なイベントやパレードが数多く行われている。筆者も過去にアメリカや日本のプライドパレードなどを取材してきたが、韓国でのイベントは、日米のそれとは大きく違っていた。
韓国のLGBTイベントを包んでいた「物々しさ」の理由
辺りを埋め尽くす警察官
台風25号の影響により1週間ほど遅れて開催された同イベント。会場近くの滞在先を出ると、辺り一帯は黄色いベストを身にまとった多くの警察官で溢れていた。近くにいた警察関係者にその数を聞いたところ、「約2000人」と返ってきたが、筆者の雑観としては3000人を超えていた。
異様な雰囲気が辺りを包み込む中、イベント会場になっている長さ500メートルほどの広場へ向かうと、その半分ほどのエリアに、数え切れないほどのレインボーフラッグがはためいているのを見る。入口を抜け、LGBT関連のブースが両サイドに建ち並ぶ会場の通りを、人や旗をかき分け写真を撮りながらゆっくり進み始めると、突然、屈強な男性ガードマンに呼び止められた。
写真撮影を止められる見物人
「写真を撮らないでください」
「あなたの写真は撮っていない」と返答すると、ガードマンはこう続ける。
「そうではなく、今撮っていた全ての動画・写真をこの場で消去してください。ゴミ箱の中のデータも完全に消去してください」
日本やアメリカでのLGBTイベントを幾度となく取材してきた筆者にとって、その行き過ぎとも言える情報管理体勢は、今まで抱いたことのない大きな違和感だった。身分を明かしてその理由を聞いてみると、「個人情報の保護」の他、こんな答えが返ってきた。
「韓国にはLGBTに反対する人が非常に多く、
SNSなどに顔が掲載されると、その一部の反対派に目を付けられることがあるんです。過去に行われた国内のイベントでも、
反対派の一部にパレードを妨害され、危険な目に遭った人もいる」
実際、こうして話を聞いている間にも、会場の外には、警察やスタッフに撮影した写真の削除を求められる人や、反対派がプラカードを掲げながら拡声器で怒号を飛ばしている姿があった。
その後、イベントの主催団体のブースへ赴きプレスパスを取ると、必ず顔にモザイク加工をするという条件で、周囲の写真撮影が許された。会場内に戻り、参加者数名に韓国のLGBT事情を聞くと、彼らは皆「日本やアメリカのように、韓国にもたくさんのLGBTはいる。ゲイバーなどもあることはある。が、様々な理由から隠れて営業しているところも多い。家族や友達へのカミングアウトも、よほどの勇気と周りの協力がない限りできないし、そもそも日常において
“本当の自分”をさらけ出せる雰囲気は、この国にはない」と口を揃えた。