広場の中央で壁を作る警察官
イベント会場を出て広場の中心へと歩いていくと、見えてきたのは何重にも並び連なった警察の壁だ。というのも、こうしてLGBTのイベントが開催される中、広場の残り半分のエリアでは、キリスト教団体をはじめとするLGBT反対派が「多様な性格は事実、多様なルックスも事実、多様な性は嘘」と書かれたプラカードを掲げ、同じように多くのブースを並べてイベントを行っていたのだ。異常なまでの警察官の数と厳戒態勢の理由が、ようやく分かった。
先述した通り、昨今の世界的な広まりからすると、韓国でのLGBTの存在は、依然アンダーグラウンドであることが分かる。その要因として考えられるのは、同性愛を認めない「
キリスト教徒」の多さと、子孫を増やし親や家族を大事にすべきとする「
儒教の教え」の存在だ。
これら国民性をも構築するほど深く根強い教えがある中、比較的新しい概念で存在するLGBTは、この国ではなかなか受け入れられない。そのためか、反対派には中高年世代だけでなく、
20代30代の若者が他国よりも多く、実際、今回の反対派のイベントを盛り上げていたスタッフや、LGBT側に怒号を浴びせていたのも、その多くが若者だった。
LGBTとその反対派
LGBTのイベントのほうは警備こそ物々しくとも、「祭」であったのに対し、反対派のそれは、どことなく「戦い」といった雰囲気があった。一方、写真撮影においてはLGBT側のような制限はなく、むしろその活動を広めたいという心情が、筆者への声がけの多さからも感じられる。
そのうちの1人、50代前半とみられる女性キリスト教信者に捕まってみたところ、「彼らLGBTの人々は、AIDSを拡散させる。子どもは男女でないと作れない」という率直な、だが偏見に満ちた意見を強い口調で訴える。
「もしあなたの子どもがLGBTだったらどうするか」という筆者の問いには、「祈ります」と返答。また、「それでも私たちは、彼らLGBTの当事者や支持者を愛している。あの人達も、神様が作ったこの世で生きているのだから」と付け加えた。
両イベントが終了した後、混雑する某コーヒーチェーンの長机で原稿を書いていると、筆者を挟んだ左側には「レインボーフラッグ」、右側には「十字架のポスター」を携えた客が座っているのに気付く。
互いの存在に気付いているか否かは不明だが、いつかその存在を互いが理解できずとも尊重し合える時が来ればいいと、改めて思うに至った。
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。