米国で人気の大学フットボール界でも失言炎上騒動が起きている。マサチューセッツ大学アマースト校のアメフト部のヘッドコーチであるマーク・ウィップル氏が試合後の会見で「相手チームにレイプされた」とコメントしたことで、女性に対する侮辱的な表現だとして批判が殺到。同氏はすぐに謝罪の声明を発表したが、大学から1週間の謹慎処分とその間を無給とする処分を受けた。
スポーツ界だけでなく、ボストンのラジオ局WEEIではある番組のパーソナリティが
中国人のアクセントを真似た喋り方をしたため、不適切だとの批判が噴出した結果、局全体が半日間の放送自粛を行うという事態に陥った。ジョージア州にあるエモリー大学ロースクールでは、教授が人種差別裁判の判例を講義している最中に
「Nワード」と呼ばれるアフリカ系米国人に対する差別語を使ったことで批判が殺到、教授が謝罪することとなった。
米国では今、こうした差別的あるいは侮辱的な言葉を口にする失言で炎上、謝罪という騒動が毎週のようにどこかで起こり、ニュースになっている。謝罪した人の多くは、謝罪だけに留まらず反省し改めるための具体的な行動として
「センシティビティー・トレーニング(感受性訓練)」を受ける。これは、言動を改めるにはまず思考からということで、思考の仕方をグループ学習で習得するというものだ。個人が受ける場合ももちろんあるし、社員1人の失言が発端で会社ぐるみでこのトレーニングを受ける場合もあり、先に触れたラジオ局WEEIも放送自粛の間に社員全員がトレーニングを受けたという。このため米国では今、センシティビティー・トレーニングの教室が大盛況だそうだ。
日本でも著名人による差別的発言や失言で騒動が起きることは多いが
「差別のつもりはなかった」「差別語とは知らなかった」などと弁明すれば許されるような風潮がある。意図的ではなかったり知らなかったりすれば、仕方がないという風潮。失言者が強く自己弁護して押し切ってしまえば、通ってしまうという風潮だ。
しかし欧米では、言い訳はまず許されず、即謝罪。差別発言をした人がどういう立場であるか、どんな人種であるかなどはもはや問題ではなく、
言葉のチョイスを間違えた時点で完全にアウトと判断される。ダーリング氏の例でもわかるように、例えばアジア人がアジア人に対する差別語を使ってもだめということだ。ポリティカル・コレクトネスに関しては、欧米と日本ではずいぶん差が出てきたのではないだろうか。
欧米の感覚はおかしいと感じる方もいるかもしれないが、どちらが正しいかは置いておくとして、
この違いを知っておかないと国際社会で戸惑うことになる。2020年には東京五輪もあり、観光客や労働者も含めこれからさらに多くの外国人が日本を訪れる。日本という国を海外から見られる機会も増えるだろう。そのときにもしポリコレ問題に直面した場合、外国人に「そのつもりはなかった」「知らなかった」は通用しない。
<取材・文/水次祥子 Twitter ID:
@mizutsugi >
みずつぎしょうこ●ニューヨーク大学でジャーナリズムを学び、現在もニューヨークを拠点に取材執筆活動を行う。主な著書に『
格下婚のススメ』(CCCメディアハウス)、『
シンデレラは40歳。~アラフォー世代の結婚の選択~』(扶桑社文庫)、『
野茂、イチローはメジャーで何を見たか』(アドレナライズ)など。(「
水次祥子official site」)