投票結果が出た翌日、サンパウロの株式市場でブラジルを代表する50社の株が平均して5.7%上昇したという。ブラジルの企業は景気の低迷からの回復をボルソナロに期待しているようである。
ところが、彼の経済政策について、これまで明白さに欠けているというのが一般の評価である。彼自身も経済政策については苦手のようで、いつも「パウロ・ゲデスに尋ねるつもりだ。それを隠すことなくいうことを恥じだとは思わない」と告白するのが彼のいつもの回答である。(参照:「
La Vanguardia」)
パウロ・ゲデスとは、ボルソナロ政権が誕生すれば、恐らく彼が財務大臣に就任してブラジル経済の行先を決めるカギを握った人物になると見られている人物である。
ゲデスは米国シカゴ大学卒でミルトン・フリードマンの新自由主義を提唱した経済改革の弟子と称されるシカゴボーイズに属している。ゲデスがブラジル経済の立て直しで強調しているのは国営企業の民営化である。これによって政府の負担を軽減させるというもの。これまでの労働者党政権では政府がすべての面で関与していた。更に、ゲデスが指摘しているのは、忘れられている中流層の回復である。労働者党の政権で貧困層への救済に力を入れていたが、経済の基盤になる中流層の発展が忘れられていたという。
その結果、景気は後退し成長率は僅かに0.4%で、一方失業者は1270万人にまで膨れ上がっているのである。(参照:「
El Confidencial」、「
El Confidencial」)
ボルソナロの新自由主義経済を提唱しているのとは反対に、アダジの労働者党がこれまで実行して来た政府による経済への介入を彼がどのレベルに抑えるのか明確にされていないという点が専門家の間で懸念されている。
アダジはサンパウロ市長の時に労働者党の本来の政治とは異なった政策も実行していた。彼は労働者党の中では余りにインテリ過ぎるとして評価されて冷たい印象を与えている。その殻を打ち砕くだけのカリスマもない。今回の立候補もルラが高等裁判所から立候補することを禁止されて、その代役として選ばれた人物である。勿論、党内でも彼をおいてルラに代わる候補者はいないとされている。
しかし、彼が大統領に選ばれれば刑務所にいるルラが陰から糸を引いてルラの政権が誕生することになると皮肉った評価もある。(参照:「
El Espectador」)
今回の選挙では労働者党の政権の復帰を多くの市民が望んでいないということを示す出来事に、ディルマ・ルセフ前大統領が上院議員として立候補したが、得票数は4位で、15%にも満たない得票率で意外にも落選した。多くの市民が労働者党離れしているということだ。(参照:「
Clarin」)
その一方で、ボルソナロの息子のひとり、エドゥワルド・ボルソナロは連邦議員として歴代最高の得票数で再選された。(参照:「
El Espanol」)
この二人に纏わる選挙結果は決戦投票の行方を暗示しているのかもしれない。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。