元フランス首相は、なぜスペイン・バルセロナ市の市長選に立候補したのか。その勝算は?

対する現市長側は苦戦が予想!?

 現市長であり、2008年の世界金融危機以降のスペインの不動産市場の崩壊や立ち退き通告の増加に対する市民運動出身であるアダ・コラウはバルスは経済界エリートの候補者だと揶揄している。  この批判に対し、バルスは「コラウのプロジェクトのひとつは貧困に取り組む為に生まれた。それが改善されたであろうか? それで貧困者が減ったであろうか? 住宅(価格)が改善されたであろうか? 価格は寧ろ上昇している」と答え、更に「議員としての報酬は良く知られている。しかも私の母親と姉は年金暮らしだ」と答えて決して富裕者ではないということをアピールした。反対に、「市政を運営していくのは容易ではない。特に、その為の経験がない場合は尚更だ」と述べてコラウの市長としての経験不足を仄めかした。(参照:「El Pediodico」)  確かに、2015年に始めて市長になったコラウは、彼女自身からして市長になるとは思っていなかったようで、他党同士で連携ができなくなって棚から牡丹餅式に市長のポストが彼女に舞い込んだという存在で、経験不足は否めない。  カタルーニャ市政を31年間担ったカタルーニャ社会党の組織委員長も経験したホセ・サラゴサが指摘しているように、「コラウは政治活動家で、政府がやっていることを外から批判するのは容易だった。しかし、本人が政府を運営せねばならなくなった時に、コラウはそれを運営することを知らない」「この3年間に彼女がバルセロナの為に何をしたかと自問しての回答は何もしていないということだ」、「彼女は市長としての職務を果たしていない。市が抱えている問題、その為の解決方法など彼女はそれを提案したことがない」と手厳しい批判をしている。  例えば、バルセロナに世界の著名ホテルが進出するのを諦めたのも、彼女が自慢しているバルセロナの未来構想の具体化が遅れて、それが明確になるまでホテルの建設を中断させたからである。コラウの市長としての再選は難しいというのが一般にメディアの評価である。

他の独立反対派が合流する可能性も

 バルスは彼が率いる「Barcelona Capital Europea(ヨーロッパの首府バルセロナ)」の候補者リストを11月に発表すると述べている。カタルーニャで独立運動で湧いているが、バルスはバルセロナを通して新しいヨーロッパの構築を目指すとしている。カタルーニャの独立という狭い視野ではなく、バルセロナからヨーロッパをリードできる都市にするという構想なのである。(参照:「El Diario」)  カタルーニャの独立を目指しいている3政党は、州政府と同様に市政も独立派が握ることを望んでいる。その望みを絶たせて、カタルーニャの首府であるバルセロナの市政をスペイン憲法擁護派が担うというのが、シウダダノスなど独立反対派の考えである。その意味で、バルスが立候補したことに、他の独立反対派の政党が最終的には合流する可能性がある。当面は他の独立反対派の間では候補者を立ててバルスに合流しない意向のようであるが、彼らはバルスを批判しないということを暗黙の内に了解しているという。  フランス政界での彼の人気は廃れているが、スペインでは彼が市民を魅了する力はまだ持ってる。コラウの市政にうんざりしているカタルーニャの企業界では彼の登場は大いに望むところであろう。 <文/白石和幸 photo by Olaf Kosinsky/Skillshare.eu via wikimedia commons> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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