バルセロナ市長選に立候補したフランスの元首相、マヌエル・バルス(Olaf Kosinsky/Skillshare.eu)
フランスの元首相マヌエル・バルス(56歳)が、来年5月26日に予定されているスペイン・バルセロナ市の市長選への立候補を9月25日、正式に表明したことは日本でも報道された。
一国の政治家が他国でまた政界に立候補するというのは異例である。しかし、フランスのマクロン大統領が、欧州連合(EU)の議員は国を代表する議員ではなく、EUの議員であることから、EU内で市民が候補者の国籍に関係なく議員を選べるようなシステムにしなければならない、と指摘している。バルスの今回のバルセロナ市長選への立候補は正にその先駆け的な出来事である。
バルスの父親はカタラン人で画家、母親はイタリア系スイス人で、バルスはバルセロナのオルタ地区で生まれた。が、幼少時からフランスで育った。スペイン語とカタラン語も話す。17歳の時にフランス社会党に入党して以来、政治活動に専念。市会議員、市長、内務相そして首相を歴任している。生粋のポリティカル・アニマルである。しかし、フランス社会党の後退を見た途端に離党し、大統領選挙にも臨んだが、マクロン(大統領)の新しい政治の流れの前に敗北。国民議会の議員に辛うじて選出されたが、バルスのフランス政界での伸展は閉ざされたというのが大方の見方である。
それをバルス自身が認知しているのかどうかは分からないが、バルスは彼が生まれたカタルーニャに強く愛着を持っているのは確かである。
そのカタルーニャが住民の半数が独立に反対しているにも拘らず、カタルーニャ州政府が独立しようとする動きには当初から反対を表明していた。
そこで、独立に反対する動きの一つに「カタルーニャ市民社会(SCC: Societat Civil Catalana)」というのが存在していて、バルスはその活動に積極的に参加していたのである。
この活動に共鳴したのが、カタルーニャで誕生して全国レベルで支持者を集めて急成長している政党シウダダノスであった。その党首アルベール・リベラがバルスを次期市長選にシウダダノスから立候補させたいと考えてリベラはバルスにそれを持ちかけてたのである。それ以来、両者は緊密な関係を維持している。が、バルスは市長になるにはシウダダノスからの支持だけでは独立派を破ることは難しいと考えていたようで、超党派で幅広く支持者を集めることが必要だと考えたようだ。
彼のこの構想の中には、カタルーニャの独立に反対してスペイン憲法を擁護しているすべての人たちからの支持を集めた基盤が必要だと考えて、今年前半はその為の共鳴者を探す活動をしていた。そして、それに良い感触が掴めたようで、今回の立候補に踏み切ったのである。勿論、彼の支持基盤の中心になるのはシウダダノスだとされている。しかし、彼が編纂する候補者リストには嘗てカタルーニャの独立を訴えていたウニオン党、カタルーニャ社会党、国民党などからもバルスの構想に共鳴する者を加えたいとしている。この支持基盤を彼は「Barcelona Capital Europea(ヨーロッパの首府バルセロナ)」と名付けた。(参照:「
El Mundo」)
なぜバルスは、カタルーニャの独立を主張している3政党と競って勝利するには、スペイン憲法擁護派が一つに団結するしか勝利の道はなく、カタルーニャ州議会で野党第一党のシウダダノスだけの支持では市長には成れないと考えたのか?
バルセロナ市議会は定員41議席。2015年の選挙ではスペイン憲法擁護派で独立反対派の議席は、国民党3議席、社会党4議席、シウダダノス5議席で12議席しかなかった。ただ、2011年は国民党と社会党の2政党だけで19議席、その前の選挙では21議席を確保したという実績はある。また、シウダダノスも2015年に比べ、現在のシウダダノスだけで10から11議席の確保が期待されている。
しかし、21議席を達成するには他党の支持が必要なのである。(参照:「
ABC」)