G-item / PIXTA(ピクスタ)
「病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつまで」――。
そう思って結婚した人たちが、離婚という選択をせざるを得ないことがある。「妻にときめかなくなった」(実際にこういう理由で離婚をしたアメリカ人を知っている)、「他のひととまた恋愛したい」(北欧では割と何度も聞いた理由)、ずばり「他に好きなひとができた」(至るところで)と、自分の恋愛感情に素直に離婚と再婚を繰り返す欧米とは異なり、日本では「子どものために」と、我慢して結婚生活を続けるひとは多い。
こうして離婚や別居を選択せざるを得なくなり、当事者同士で解決できなくなって、「離婚したい」「養育費や婚姻費用(生活費)を払ってもらいたい」と家庭裁判所を訪れたら、きっと驚かれると思う。なぜなら、それら本題の話はそっちのけで、「面会交流をしろ。とにかくいますぐしろ」と、執拗に迫られるからである。
離婚の原因がDVであっても、「夫婦のことは子どもには関係ないでしょう」といわれ、斟酌されることはほとんどない。裁判所で保護命令が出ていたとしても、その期間が終わったらすぐに面会交流だといわれる。また子どもへの虐待が原因であっても、証拠はどれだけあるのかと迫られる。驚くべきことに子ども自身の証言も、「親に言わされているのはないか」と解釈されるのだ。その結果、面会交流にひきずって行かれ、心身の不調や不登校に悩まされている子どもも多くいる。生活が激変しているところに、また面会交流に翻弄され、いま子どもは、家庭裁判所でもみくちゃにされているのだ。
「子どもに会えない」という父親権利擁護運動の成果のひとつとして、2012年に離婚時に「子どもの利益」を考えて面会交流(や養育費)を取り決めろという、民法766条の改正が行われた。この改正を受けて、家庭裁判所は「原則面会交流」の方針を打ち出している。それから5年近くが経ち、この改正が何をうみだしているのか、体験談や家庭裁判所実務の現状を紹介していきたい。
今回紹介するのは、みきさん(仮名)である。みきさんは、なんと夫の虚言により精神科の病院に拉致・監禁され、離婚を余儀なくされたにもかかわらず、裁判所で「そんなことは関係ない。子どもに会わせないどのような理由があるのか」と迫られたという。
「ある朝、出勤前の部屋着のままで、突然屈強な男たちが乗りこんできて、家から引きずり出されて車に乗せられました。家の前では通行人の人だかりができていて、恥ずかしかったです。早朝から着替えてウキウキしている夫を怪訝に思って、また浮気でもしているのかと思い、口論になったところを、夫が携帯電話で指示して多くの男性たちに踏み込まれました。夫は明らかに嬉しそうで、確実に悪意があったと思います」
法治国家で、いきなり精神病院に拉致すること等できるのだろうか。みきさんが退院後に病院によって開示されたカルテには、夫の証言以外に症状はないことが明記され、それにより退院が決定している。
開示されたカルテでは、診察、経過観察、実母からの聞き取りで「精神病症状を疑うべきエピソードはなかった」と書かれている。夫の(偽の)証言のみである
「あとから判明した話ですが、夫は児童相談所や警察にも『私が子どもを虐待している』と嘘をついて、不審に思われて追い払われていたそうです。高齢出産でできた子だったし、子どもを殴ることはもちろん、怒鳴ったことすら一度もありませんでした。ただ事後に開示されたカルテでは、保健所が夫の話を真に受けて、何の事前調査もせずに夫に協力したようです。むしろきちんと子どもの検診の記録を見れば、私が夫による不適切な育児で悩んでいること、異常な結婚生活の相談が書かれていたと思うのですが。
病院に着いたら、私の診察の前にすでに入院の手筈がすべて整っていました。東京都に不服申したてができるという紙を一枚渡されましたが、『通信禁止』と言われて電話もできない状態で、そのようなことができるはずもありません。看護士さんが『こんなのおかしい。絶対に退院できるから、気を強く持ってね』と耳元で囁いてくれたのだけが救いでした。
通信禁止が解けたあと、実母にみきさんが話した説明と、元夫による説明がまったく食い違っている。元夫によれば、実母は「みきさんの暴力の被害者」だった。ほかの個所では、「(みきさんが子どもを)大変可愛がっていた」「虐待とは思えない」という記載もある
夫は離婚が不可避なら、子どもの親権を取ろうとして、嘘をついて私を監禁したようです。たまたま実家に預けていた娘を夫が引き取りに行く前に、こちらが思いもかけず早く退院の手筈を整えて退院したおかげで、子どもは無事でした。そうでなければ、彼は子どもを返さなかったと思います」
みきさんによれば、子どもへの性的虐待もあり、面会交流で4年近く争った。面会交流のたびに子どもが寝込み、学校に行けなかったり、毎朝大幅に遅刻をしたりする状態にあるという。子どもの登校に付き添っているみきさんは、へとへとに疲れている。なによりもみきさんが、突然夫によって拉致監禁されるという経験によって、傷つき疲れ果てているのに、裁判所が追い打ちをかけてくるように感じるという。
「事件直後は、縁があって結婚したのだから、夫婦の問題は家庭内に収めようと思ってしまっていたんです。でもその後、夫からされた裁判所を使った嫌がらせを考えたら、きちんと前科をつけておくべきだった、甘かったと反省しています」と、みきさんはいう。