沖縄が押し付けられてきた「『戦後の国体』が抱える矛盾」とは?<白井聡氏>

月刊日本編集部

沖縄辺野古の国境フェンス

yasushi uesugi / PIXTA(ピクスタ)

 今週末に迫った沖縄県知事選。オール沖縄側候補の玉城デニー氏と与党側の佐喜真淳氏の事実上の一騎打ちとなっているが、その結果は今後の沖縄だけでなく国政にも影響を与えるものとして注目されている。
 そんな中、翁長雄志県知事はどのような意志を持って沖縄県政に挑んでいたのか。沖縄が押し付けられていた「戦後の国体の矛盾」とは何なのか?

月刊日本10月号』に掲載された『国体論 菊と星条旗』(集英社新書)の著者であり気鋭の政治学者である白井聡・京都精華大学人文学部専任講師の論考をお送りしたい。

翁長雄志知事の生き様

―― 沖縄県の翁長雄志知事が亡くなりました。4年に及ぶ翁長県政をどのように評価していますか。

白井聡氏(以下、白井):翁長氏は沖縄県知事に就任して以来、強固な意思を持って辺野古新基地建設を食い止めようとしてきました。その激務とストレスが命を縮めることにつながったのだと思います。その意味で、翁長氏の死はまさに壮絶な死と呼ぶべきであり、その生き様、死に様には人の胸を打つものがあります。

『国体論 菊と星条旗』(集英社新書)

 この間、翁長氏は私たちが耳を傾けるべき発言を多く行ってきました。たとえば、2015年に菅官房長官と会談した際には、「安倍総理が『日本を取り戻す』というふうに、2期目の安倍政権からおっしゃっていましたけど、私からすると、日本を取り戻す日本の中に、沖縄は入っているんだろうかなというのが、率直な疑問です」、「『戦後レジームからの脱却』ということもよくおっしゃいますけど、沖縄では戦後レジームの死守をしているような感じがする」と述べています。

 これは私が「戦後の国体」と呼ぶものに対する根源的な異議申し立てです。『国体論 菊と星条旗』(集英社新書)で論じたように、戦前の日本は「天皇陛下がその赤子たる臣民を愛してくれている」という命題に支えられ、その愛に応えることが臣民の義務であり名誉であり幸福であるとされました。ここでは天皇に支配されているという事実が否認されています。これが「戦前の国体」です。

 戦前の国体は敗戦を機に再編成され、かつて天皇が占めていた位置をアメリカが占めるようになります。その結果、戦後の日本では「アメリカが日本を愛してくれている」という命題が支配的になり、日本がアメリカに従属している事実が否認されることになりました。この特殊な対米従属レジームこそ「戦後の国体」です。

 この戦後の国体は天皇制の存続平和憲法沖縄の犠牲化の三位一体によって成り立っています。

 マッカーサーは日本の占領を円滑に進めるために天皇制を存続させようとしましたが、そのためには徹底的な非軍事化を打ち出さなければなりませんでした。というのも、世界中で多くの人たちが「ヒトラー、ムッソリーニに比すべきヒロヒト」と考えていたからです。

 その一方で、アメリカは共産主義の脅威に対抗するため、日本を軍事要塞化する必要がありました。これが「戦後の国体」が抱え込んだ大いなる矛盾です。そこで、その解決策として、日本から沖縄を切り離し、米軍が完全に自由に使用できる「基地の島」と化すことにしたのです。

 ここには昭和天皇がアメリカに沖縄占領の継続を求めた「沖縄メッセージ」も関係しています。沖縄メッセージが実際にどれほど影響力があったのか十分には明らかになっていませんが、昭和天皇の考えは当時の日本の統治エリートたちの一般的な意思と合致しました。

 その結果、沖縄は日本国憲法もアメリカ憲法も通用しない、いわば無法地帯となりました。もちろん民主主義は存在せず、経済的繁栄からも取り残されました。

 このように、沖縄は「戦後の国体」の矛盾が凝縮された場所です。翁長知事にはそのことがよく見えていたからこそ、「戦後の国体」を正面から批判し続けたのだと思います。

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自覚なき「沖縄差別」
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月刊日本2018年10月号

特集目次
安倍政権の6年を総括する
誰のための改憲なのか!
忍び寄る安倍全体主義
大企業のためのアベノミクス

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