退任4日前にパレスチナを国家として承認したサントス大統領の深謀遠慮

サントス前コロンビア大統領

サントス前コロンビア大統領 photo by Cancillería del Ecuador via flickr(CC BY-SA 2.0)

 南米コロンビアで8月に任期満了で大統領職を退任したホセ・マヌエル・サントス。彼は退任する4日前に、コロンビア政府がパレスチナを国家として承認することを決定していた。  パレスチナ自治政府はコロンビア政府のこの決定を祝ったが、一方のイスラエル政府にとってまったく予期しなかったことで強く不快を覚えたという。何しろ、コロンビアとイスラエルは長年良好な関係をもっており、イスラエルが建国された時にはコロンビアは同国の防衛に協力する意味で武器をも供給した間柄であった。また、イスラエルにとってコロンビアはラテンアメリカで最も信頼している国のひとつである。  イスラエルは周辺諸国との戦い、コロンビアはゲリラ組織との戦いということでこの分野でも両国は協力して来た。  2011年にサントス(当時)大統領がイスラエルを訪問した際にも、原則としてコロンビアはパレスチナを国家として認めないと発言していたほどだ。(参照:ジャーナリスト・Fedrico Gaonのブログ)  そのため、コロンビア政府がパレスチナを国家として承認したという発表は「信頼している同盟国に平手打ちを食わされたようで、両国そしてそのリーダー(サントスとネタニャフ)同士の親しい関係に矛盾している行為だ」として在コロンビアのイスラエル大使館が不満の声明を発表した程である。(参照:「El Heraldo」)  また、当のサントス自身も民意に問うことなくパレスチナ国家を承認するというのは時期尚早であると知っていたようである。そこで、コロンビア政府のこの承認は目立たない形を選んだ。即ち、このパレスチナ国家承認を正式な外交ルートを通すのではなく、サントスの政権時に外相を務めたマリア・アンヘラ・オルギンが、コロンビアに所在しているパレスチナ代表組織にそれを通知するという形式を取ったのである。(参照:ジャーナリスト・Fedrico Gaonのブログ)  果たして、そうまでして退任4日前にパレスチナを国家として承認したサントス元大統領の思惑とはいったいどこにあったのだろうか?

サントス大統領の深謀遠慮

 サントスはコロンビアを半世紀の間苦しめたゲリラ・テロ組織コロンビア革命軍(FARC)との和平交渉で合意に導いた功績が称えられて、2016年にノーベル平和賞が授与されている。コロンビアという国家が世界的にもっとも重みのある国であれば、彼の存在は世界の平和活動により影響力を発揮しているはずである。  国際外交に長けた彼が大統領の二期8年満了で退任の直前に、パレスチナを国家と認める決定を下した背後には、彼の後任イヴァン・ドゥケ大統領への対イスラエルとパレスチナの関係を正しく導いて行くための配慮が隠されていたように思える。
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経験の浅い新大統領への「スルーパス」
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