バンコクに住むある日本人自営業者は、韓国人が東南アジアに急増したのは、韓国人の労働力が流出しているからではないかと推測している。
「韓国は学歴社会の上、就職もヒュンダイやサムスンといった大手でしか明るい未来はない。がんばって勉強しても大企業に就職できなければ、一生這い上がれない低所得者層に落ちぶれる。だから、勉強はできたけど就職戦線に敗れたという人はどんどん国外に流れていくのではないでしょうか」
ただ、この見解を先に登場したディアライフの高村氏に聞いたところ、「そうですかね。韓国で仕事がないから外に出るというのはあまり聞かないですけど……」ということだったので実際のところは不明だし、知ることも難しいかもしれない。
というのも、バンコクに滞在する日本人が韓国人と交流することは少ないからだ。バンコクの日本人社会では日本人同士でビジネスを展開することが多いように、どの国も文化的背景や商習慣を共有する同国人と仕事をした方がやりやすいのである。それが韓国人社会の場合はもっと顕著なのだ。
韓国人は韓国人経営レストランやバーに行き、韓国人と話して過ごす。だから、韓国人はバンコクにたくさんいても、駐在員として滞在する大企業の社員にはめったにお目にかかれない。よく見かけるとすれば観光客か、自営業者ばかりだ。
バンコクでは「ムーガタ(豚鉄板焼き)」と呼ばれる「ヌアヤーンガウリー(韓国式焼肉)」
ちなみに、自営業韓国人で多いのは飲食店経営者だ。タイ人も韓国料理、特に焼肉を好むので、比較的成功率も高い。少なくとも20年以上前には東北地方の鉄板焼きが「ヌアヤーンガウリー(韓国式焼肉)」という名称で、プルコギをタイ式にした料理として大衆に受け入れられていた。鉄板も本場のようにジンギスカン鍋のような形状で、今ではタイ全土で楽しめる料理になっている。
韓国人経営の韓国式焼肉店はキムチやナムルが無料でたくさん食べられるので、実際タイ在住日本人にも人気が高い。今でこそ日系の焼肉店が増えたバンコクだが、10年以上前はほとんど存在しなかったため、若い日本人は韓国焼肉に通って肉への欲求不満を解消していた。
いずれにしてもタイに韓国人が増加しているのは事実だ。筆者のバンコク郊外の自宅周辺も以前は台湾系が多かったが、今は韓国人系の家族ばかりになる。韓国は国土も狭く、受験戦争や就職戦争も熾烈だという。先の日本人経営者が言うように、優秀だったが就職戦争だけで敗れた韓国の若者たちが、市場が大きな国に行った方がいいと考えるのも自然なのかもしれない。
筆者自宅そばの韓国式焼肉は大成功を収め、半年で巨大な店舗を建てている
タイの日本人社会を見ても日本よりも自由な雰囲気はある。目上の人に対する礼儀作法が厳しいという韓国。国外に移住して成功すれば、そんな煩わしさからも解放もされる。韓国に限らず、どの国の人から見ても常夏の東南アジアは自由で、移住するには天国に思えるのかもしれない。
<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:
@NatureNENEAM)>
たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『
バンコクアソビ』(イースト・プレス)