「泊発電所が稼働していれば大停電はなかった」論の愚
私がSNSを見ていた限りにおいて、9月6日8:22に次のようなTweetがありました。下に要約します。
”こういう脆弱な状況がずっと続いてきた
恐れていた事態が遂に起こった
発電所が一つ停止しただけで破綻する状況が異常だ
泊が動いてればこういう事態にはならなかった。”
このTweet以後、申し合わせていたかのように
泊が稼働していれば大停電は起きなかったと言う主張が雲霞の如く発生しました。
この主張は正しいのでしょうか? 答えは
否。この主張は、何重にも誤っています。
まず、泊発電所は、
原子力規制委員会による審査に合格することが出来ずに稼働できていません。したがって、大前提として泊発電所は
商用原子力発電所として法的に稼働できません。したがって、
「泊が動いていれば」という仮定自体が全く無意味です。
泊発電所は、優先して審査が進められている加圧水型原子力発電所(PWR)の中でも当初最優先で審査が進められていました。これは再稼働の実績を作る為にPWRの中でも反発の少ない田舎の発電所を優先した為と指摘されています。ところが、泊の審査が進まず、伊方発電所が最優先となり、この伊方も愛媛知事選前年の市民による反対集会に予想外に多くの市民が集まり、翌年の愛媛県知事選挙への影響を恐れて繰り延べになりました。結果、既に県知事選挙を終えていた鹿児島県の川内発電所の審査を最優先に進められた経緯があります。この当時、鹿児島県知事であった伊藤祐一郎氏は、自治官僚時代に石川県に出向し、志賀原子力発電所の立地計画に携わった経緯がありました。
伊方発電所は1年遅れの2016年8月に再稼働し、既に隣接県、市町村などの反発が強く逆風の強い関西電力でも大飯、高浜発電所の再稼働がはじまっています。PWR陣営では、老朽化著しい美浜発電所、直下に活断層があり、審査合格の見込みがない原電敦賀2と泊発電所が再稼働未達成で残るだけです。
では何故、泊発電所は新規制基準の適合性審査に合格できないのでしょうか。泊発電所は3号炉が2009年運開と、国内PWRではずば抜けて若く、1号炉2号炉も第1次改良標準化炉の後期運開で、問題になるほど古い訳ではありません。
理由は単純に、
北海道電力が原子力規制委員会(NRA)の求める水準を満たせないからです。書類不備が次々にNRAに指摘され、適合性審査は遅れに遅れています。国や関係者は、NRAの適合性審査を、「世界一厳しい」と僭称(せんしょう)していますが、実際には多重防護の第5層が存在しないことからも分かるように、旧西側世界では
ザルといって良いくらい大変に甘いものです。その適合性審査の合格水準に遠く及ばないのが北海道電力泊発電所です。
また、泊発電所は、東京電力柏崎・刈羽発電所と並んで
構内で不審者の侵入や不審火が多発(参照:
泊発電所の安全管理体制 北海道庁)する世界でも珍しい原子力発電所で、これも
原子力安全という点で著しい欠格事項です。
もともと2014年には運開が見込まれていた泊発電所が審査に合格できず運転再開できない、この先順調に審査が進んだとしても来年後半の運開も怪しいのは単純に泊発電所が基準を満たせない為です。したがって、
「泊が運転中であれば」という「たら」「れば」論は、6年越しで車検に合格できない整備不良の無車検車を乗り回せ「たら」と言うようなものです。
要するに、手続き論としこれらの主張は破綻しています。