韓国のMeToo問題、女性秘書をレイプした知事への無罪判決に、国民が怒りの決起デモ

裁かれているのは「被害者」という悲劇

 しかし、再三にわたりこのガイドラインをメディアに配布しても、全く普及されない。  被害者は容赦なく顔写真や身辺情報をさらされ、さらには被害状況や行為の詳細までもさらされる。今回、安前道知事の「無罪判決」と相まって、メディアは堂々とガイドライン違反の報道を繰り返した。あたかも、安前道知事が正義を貫き、「無罪判決」を勝ち取ったかのように。マスコミが求めているのは、「真実」などではなく、「閲覧数」や「話題性」だ。  安氏の判決後、ツイッターのリアルタイム検索ワードランキングには「学生 Me Too」がランクインした。関連報道をみると、今年6月に暴露された、韓国・ソウル市蘆原(ノウォン)区にある女子高での教師によるセクハラ事件を追った記事が数多くヒット。(参照:HBO・生徒の顔を舐めた変態教師が3か月で職場復帰する「韓国の私立学校」の現状に生徒らが#MeTooで立ち上がる)  しかし、記事のタイトルは「スカートの中に手を入れて、太ももを◯◯した」、「胸をさわり、スカートにも」など、いずれもシチュエーションや行為に及ぶ言及ばかり。報道というよりも、むしろわざとらしく描かれたスキャンダル的な扱いである。  韓国メディアを総合的に監督する言論仲裁委員会は、その時々の審議に応じて「是正勧告」を出している。  7月に発行した「2018年 言論仲裁夏号」によると、今年2~4月にかけて、「Me Too」案件の手口描写で是正勧告を出した事例は、なんと143件にも及ぶ。(参照:時事ジャーナル)  これは、性暴力関連報道のうち51件に是正勧告をした2014年に比べて3倍ほど高い数値となっており、韓国メディアが「Me Too」運動をどのように捉えているのかが見てとれる。  あるメディアが今回の判決文の全文を掲載した。  そこには、裁判部が安前知事の主張を全面的に受け入れて、被害者金氏の主張を排除したことが明らかになっている。裁判部は、安前道知事の現職時代の振る舞いや拘束後の言動から、「権威的ではない政治家」として評価し、行為にはなんらかの圧力が行使されていないと判断した。  一方で被害者側の金氏に関しては、行為の際、部屋を飛び出す、または安前道知事をはねのけるなど、積極的に振り切って抵抗をしなかったことを理由に、「信憑性なし」と判断した。  判決文では、安前道知事が及んだ行為よりも、金氏がどれほど抵抗したかに焦点が当てられている。また、性的暴行を受けながらも、金氏が翌日には職務を通常通りこなした様子を「被害者らしからぬ言動」と明らかにした。  被害者金氏の「抵抗不足」により、「同意」があったと見なされ、その後「被害者らしさ」も垣間見えないことから、容疑者を「無罪」とする。  今回裁かれたのは、一体誰なのだろうか。  安前道知事の判決を受けて、韓国社会が「Me Too運動」をどう捉えているのかが露呈されたといっても過言ではない。  現行法、男尊女卑思想、メディアのあり方、被害者らしさ。変えなければならないものは数多くある。何かを変えなければ、「結局、何も変わらない」という諦めが、変わらず社会に蔓延してしまう。 <文・安達 夕 @yuu_adachi
Twitter:@yuu_adachi
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