キューバ最大の外貨獲得源「医師・看護師派遣」の闇が問題化

Parentingupstream via pixabay(CC0 Creative Commons)

 キューバで一番の外貨獲得源は何かご存知だろうか? それは外国への人的派遣サービスである。その中でも一番のドル稼ぎに貢献しているのは医師と看護師の外国への派遣である。

医師派遣で年間1兆円近くの歳入

 ホセ・ルイス・ロドリゲス元経済相によると、2011年から2015年の間に年間ベースで115億4300万ドル(1兆2700億円)がキューバ政府のこの分野における歳入になっているというのだ。また、2016年度保健統計年鑑によると、62か国にキューバ人医師が派遣されているという。その内訳はラテンアメリカの24か国、サブサハラ27か国、中東と北アフリカ2か国、中央アジアと太平洋7か国、それにロシアとポルトガルにも派遣されているという。  派遣されている医師の数は2015年統計で5万人以上で、キューバの医師の数は2016年統計で9万161人とされている。因みに、看護師は8万9072人と統計されている。即ち、キューバの医師の半数が外国に派遣されて政府のドル稼ぎに貢献しているということになる。(参照:「Martinoticias」)  医師が一番多く派遣されているのはベネズエラとブラジルで、それ以外にカタール、クウェート、中国、アルジェリア、サウジアラビアそして南アフリカとなっているそうだ。そして、このキューバ人医師の現地での奉仕に対してキューバ政府にその報酬が支払われるわけである。  ただ、経済的に貧困な国に対しては飽くまでボランティアとして医師団を派遣しているそうだ。その対象になっている国はハイチ、ボリビア、エルサルバドル、グアテマラ、ニカラグア、ホンジュラス、エチオピア、コンゴ、タンザニア、モザンビケといった国々である。(参照:「Martinoticias」)

実質的な「タダ働き」に医師らが反旗

 ところが、派遣された医師や看護師ら医療団は、キューバ政府が派遣前に約束したこととは全く異なる厳しい現状に直面し、その結果、その職務を放棄して米国に移住するという現象が起きているのである。これが特に顕著なのはベネズエラに派遣された医療団の中から発生しているというのである。  そして米国に移住したキューバ人医師らが抱えるている一番の問題は、キューバ政府が彼らの帰国を許可しないということなのである。その理由は、キューバ政府によると、彼らは与えられたミッションの職務を放棄したというのが理由だとしている。  彼らから見れば、政府は彼らを囚人のごとく拘束し、人的権利も侵害するようなミッションだったということには一度も触れたことがなかったと指摘しているのである。しかも、給与を受け取る権利も剥奪されたそうだ。  しかし、政府は彼らを逃亡者だと見做しているという。それに対して、彼らは職務を放棄したことは認めるとしながらも、それは大きな欺瞞であったとし、祖国そして彼らの家族から逃避したのではないと答えている。(参照:「Cubanet」)
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「医師を搾取する奴隷制度だった」
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