エル・サルバドルが中国と国交樹立。そして台湾とは国交断絶。今後の行方は?

国交樹立

中国とエル・サルバドルの国交樹立を報じる「El Mundo」紙

 8月20日、中米のエル・サルバドルが台湾との国交の断絶を決め、中国との国交樹立を発表した。この出来事は台湾の蔡総統がパラグアイとベリーズそして米国ロサンジェルスとヒューストンを歴訪して帰国した矢先の出来事であった。南米で唯一外交関係のあるパラグアイではマリオ・アブド・ベニテス大統領の就任式に参列している。

断行を発表したのは台湾からだった事情

 今回の断交に対して台湾が取った手段はこれまでとは些か行動を異にしている。エル・サルバドルが国交断絶を発表する前に、台湾の方から両国の国交断交を発表したのである。  それには理由がある。台湾の吳釗燮(Joseh Wu)外交部長によると、エル・サルバドル政府はラ・ウニオン県にある港の開発の為と2019年2月の大統領選挙に向けて法外な資金の提供を台湾に要求して来たというのである。さらに、中国と国交樹立するのが間近に迫っているという情報を台湾政府が事前に掴んでいたことから、台湾政府は85年続いた両国の関係であったが敢えてエルサルバドルの断交発表前に断交を決めたというのである。(参照:「elsalvador」、「Prensa Libre」)  エル・サルバドル政府が法外な資金を要求したというのは、台湾がそれに応えられないことを知っての挙動であろう。ラ・ウニオン県の港の開発については、今年7月に在エル・サルバドルの米国大使ジェーン・マネスが中国がこの港を開発して将来的には軍事基地にするのではないかという懸念を表明している。  エル・サルバドルのファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMIN)政府は、台湾との関係を犠牲にしても中国との関係を強化するということを以前より決めていたようである。だから台湾との関係を断つ機会を模索していたということであろう。

エル・サルバドル政府の思惑

 2009年から政権を握っているFMINは反米主義を信条にする政党である。米国よりも中国との関係強化に関心を持つのは当然のことであろう。  中国は中米そしてカリブ海における弱小国に介入してこの地域を軍事化しよということに関心をもっているのだとマネス大使は指摘している。(参照:「elsalvador」)  一方、今回の中国との国交樹立にあたりエル・サルバドルのサルバドル・サンチェス・セラン大統領はテレビとラジオを通して次のように声明を発表した。 「これ(国交樹立)は正しい方向に向かう一歩である。それは国際法、国際関係そしてこの時代において避けられない流れである。そしてこれは我が国にとって大きな利益をもたらすものである」と述べたのである。  と同時に声明発表の中に、台湾で奨学制度を受けて修学している学生は近日中に中国に移動することにも触れた。(参照:「elsalvador」)  奨学制度というのは、台湾が国交を樹立している国の学生を対象に台湾で修学できる制度のことである。特に、経済的に弱小国では容易に大学まで進学出来る学生には限りがある。それを台湾は留学生として受け入れ、台湾での修学期間の費用は台湾政府がすべて負担するというものである。例えば、台湾が22か国と外交関係を結んでいた2016年には義守大學医学部に外国から160の留学生が修学していたという。(参照:「El Pais」)
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