アーティストの手元に入るのは12% 変わらぬ音楽産業の構造

新聞とセットでアルバムを販売

 新しいテクノロジーが導入されても旧態依然としている音楽産業。しかし、アーティストたちは常に新しい形で音楽を届けようと挑戦を続けている。  老舗音楽誌『NME』は、プリンスの革新的な販売方法を紹介している。特に印象的なのは次の3枚だ。 『クリスタルボール』(‘98年) “初めてプリンスが独立アーティストとして発売したアルバム。一切の宣伝がされず、ウェブサイトと電話予約でしか購入できなかった。のちにウェブサイトでは10万枚以上の予約があったときにのみ製造されると告知された。しかし、驚くべきことにこの手法は機能した。同アルバムは宣伝抜きで25万枚、1100万ドル以上を売り上げた” 『ミュージコロジー』(’04年) “当初は公式サイトでMP3のダウンロード販売された作品。40万枚以上無料配布されたミュージコロジー ライブ 2004everツアーのおかげもあり、彼のもっとも売れた作品のひとつとなった。物販の出店にどれだけの人が殺到したか想像してみてほしい!” 『プラネット・アース』(’07年) “’07年、プリンスは『メール・オン・サンデー』(『デイリー・メール』の姉妹紙)と新作アルバムを無料で表紙につける契約に合意した。また、8月から9月にかけてO2アリーナで行われたツアーの全観客にも無料配布された。コロンビアが同作のイギリスでの配給を拒否したため、レコードストアのHMVは利用者の手に渡るよう『メール・オン・サンデー』を同店に置くこととなった”  音楽産業が敷いたレールとは外れた道を模索し続けたプリンス。音楽センスだけにとどまらず、あらゆる意味で彼がアーティストと呼ばれる所以だろう。  また、‘07年には人気ロックバンドのレディオヘッドが、買い手自らが購入価格を決められる“投げ銭”制のアルバム『IN RAINBOWS』をリリース。しかし、これは無料でもダウンロードできたため、お金を払って購入したのは約40%にすぎなかったそう。  アイドルグループに多く見られる“握手券付き”という販売方法も、賛否両論あるがフィジカルリリースの売り上げを確保するという意味で、斬新な方法と言えるかもしれない。もっとも“大人たち”がプロデュースした作品であれば、アーティスト本人が潤うかどうかとは別な話かもしれないが……。  超巨大産業となった音楽界だが、アーティストがどのように収入を上げるかは常に議論されてきたテーマのひとつだ。’00年にメタリカがファイル共有サービス、ナップスターを相手に著作権侵害やデジタル音楽ソフトの違法使用などについて訴訟を起こしたときは、「ミュージシャンのくせにカネにがめつい」という見方をするファンも少なくなかった。  アーティストが音楽を作りながら生きていくには、テクノロジーの進歩だけでなく、ビジネス面でのイノベーションも必要なのかもしれない。 <取材・文・訳/林泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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