今回の判決でクリスタレックスの言い分が認められて、同じように被害を受けた他社も同様に賠償の請求に動くための道が開けた。しかし、差し押さえの為の具体的な法的手段が明確にされていない為、どのような形で損害賠償金を受け取ることができるのか不確かな状態にあるという。
しかも、昨年ベネズエラ政府は国債などの償還をしておらず、その額は650万ドル(7兆1500万円)になるという。(参照:「
Clarin」)
更に、事態を難しくしているのは、ロシアの石油会社ロスネフトから15億ドル(1650億円)の融資を受けるのと交換でベネズエラ政府はCITGOの49.9%の株をロスネフトに譲渡しているのである。残り51.1%の株価を保障に2020年満期の社債発行を実施している。(参照:「
Infobae」)
ベネズエラ政府がロスネフトに49.9%の株を付与した時に、さらに同社から融資を受けるのに、残りの株も譲渡して米国にロシアの企業が突如出現するのではないかと懸念されていたが、それは現在まで実現されていない。
しかし、今回の判決はマドゥロ政権にとって大きな痛手となる可能性が十分にある。例えば、今年5月に米国はベネズエラから1517万9000バレル輸入しているが、その内の639万バレルがCITGOが輸入した量であるという。仮に、CITGOが押収されるとこの輸出量が消滅することになる可能性が高い。それはベネズエラ政府の僅かしかない収入源が無くなることを意味する。ベネズエラの経済をさらに深刻化させることになる。(参照:「
La Patilla」)
また、CITGOは財務的に健全な企業とは言えないが、米国の3か所に精油所を持っており日量75万バレルを精製している。ガソリンスダンドは10000か所もっている。資産はおよそ80億ドル(8800億円)であるが、負債は46億ドル(5060億円)を抱えている。現在、米国で6番目の石油会社となっている。
米国は機会あるごとにベネズエラ政府の資金源を絶つための手段を講じているようだ。そして、軍部でマドゥロ政権への不満が募り、内部からマドゥロ政権の崩壊を計るということを狙っているようである。
米国の影響下に置こうとしているベネズエラの次に、米国の標的になっている国はニカラグアである。そうさせまいとロシアと中国が踏ん張っているというのが現状だ。
米国のラテンアメリカ諸国への対応次第で、逆にロシアや中国の影響力が強まる可能性もある。今後も注意する必要がある。
<文/白石和幸 photo by
Mike Mozart via flickr(CC BY 2.0)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。