ハワイ・カウアイ島にあるイージス・アショア実験施設。photo by U.S. Missile Defense Agency via flickr (CC BY 2.0)
イージス・アショア、昨年5月に新聞などで取り上げられたアメリカ合衆国(合衆国)の弾道弾迎撃システム、まるで
無敵の超兵器のように取り上げられたり、
無駄だと批判されたり、賛否は分かれていますが、ろくな情報が巷にはありません。
私はこの分野は専門外なのですが、
弾道弾防衛(MD)については
弾道弾迎撃ミサイル(ABM)にはじまり
戦略防衛構想(SDI)、
戦域ミサイル防衛(TMD)から現在の
イージスMD、
終末高高度防衛(THAAD)、
Patriot Advanced Capability3(PAC-3)の三段防衛まで専門外なりに追跡してきましたので、高校卒業程度の方が分かるように記事を書いて行こうと思います。
この軍事関連の界隈、「素人質問で恐縮ですが」と質問すると、罵倒したり、嘘を教える変なひとが大勢おりまして、なかなか素人には取りつきにくい分野ですが、理解の一助になればよいと思います。
「THAADは高いからイージス・アショアを買う」のアホらしさ
イージス・アショア導入については、昨年5月16日の稲田朋美防衛大臣(当時)の会見が公式には始まりの筈です。(参照:
「ミサイル防衛強化で中期防前倒し論 地上型イージス、THAAD… 予算が最大の壁、慎重論も」産経新聞 2017.5.16 21:39)
北朝鮮によるミサイル実験が多く実施され、緊張度が高まっている為に弾道ミサイル防衛を強化する。従前より検討中の
THAAD導入は初期費用で
1250億円と高すぎるので
、陸上型イージスを2基導入する。それによって、初期費用は
800億円に節減されるということが導入の理由でした。
THAADは、終末弾道迎撃(ターミナルフェーズ迎撃)システムであり、イージスMDは、中間飛翔段階迎撃(ミッドコース迎撃)システムですので、二つは
全く異なるものですから、「THAADのかわりにイージス・アショアを導入する、理由は安いから。」と言う発言を聞いて私は腰を抜かしました。
農作業用に軽トラック10台が必要なのに「安いらしいから」高級ベンツを2台買うと言うようなものだったからです。
日本では、弾道弾防衛について市井に良い本がなく、早速報道でも個人ブログでも
まるで超兵器かのようにイージス・アショアの迎撃範囲を過大評価する図表が乱立し始めました。
図1-1 イージス・アショア導入報道で乱立した誤りの例1(赤丸が有効迎撃範囲を示す)中心は佐渡分屯地 迎撃半径2000km
これを見たとき、私は笑いが止まらずに椅子から転げ落ちました。
これは
Standard Missile 3;
SM-3 Block IIAまたは
IIBという現在開発中の弾道弾迎撃ミサイルの最大飛程が2000kmであるということからの
誤解による図です。
ミサイルは三次元を飛びまして、ノドンなどの
準中距離弾道弾(MRBM)は高度500km程度、ムスダンなどの
中距離弾道弾(IRBM)は、高度1000kmまで上昇しますので、ミッドコース・防衛用のSM-3 Block IIAの飛程は2000kmほど必要になります。ですから、
射程距離が2000kmということは無いのです。当時、この赤丸がTwitterにもブログにも、新聞、TVにも乱立し、私は
「ミートボール」と名付けました。