既に景気が低迷しているトルコは、トランプのこの決定を受けてトルコの通貨リラは大幅に下落するに至った。年始から見ると対ドル40%の下落となっている。(参照:「
La Vanguardia」)
トルコの通貨危機の始まりである。エルドアンは国民に向けて、ドルを売ってリラを買い戻すように説得に努めている。しかし、トルコ人の間ではこれまでもリラへの信頼は薄く、ドルを保有する傾向にある。エルドアンは「彼らはドルを持っていても、我々にはアラーの神がついていることを忘れてはならない」と言って、国民にドル売りを説いているが、独裁色が強くなっているエルドアンの前に、彼への支持派と反対派で国内は完全に二分している。支持派が大多数を占めていた以前のようなことはなくなっているのだ。それでも、強圧的なトランプの姿勢を前に、トルコ国民はエルドアンの訴えに従ってドルや金を売ってリラに交換していると『
El País』のイスタンブール駐在記者が報じている。
この通貨危機が始まって、これまで低く抑えられていた金利も8%から18%に挙げた。インフレは15%だ。高いインフレにも拘らず5年間金利を低く抑えていたのは建設業界の資金操作を容易にするためと、観光業の促進と消費をそそるためであった。それを独断的にエルドアンが指示して来たのである。その影響で経済の安定に必要な外貨は国外に流出して行った。更に、通貨の下落を抑えるべくこれまで60億ドル(6600億円)を投入している。(参照:「
El Pais」)
国のGDPに占める負債は50%であるが、民間部門の負債は72%である。これから勇断ある対策が必要であるが、トルコの財政のカギを握っているのはエルドアンの娘婿アルバイラク財務相である。彼がエルドアンの耳が痛くなるほどの苦言をしてまでトルコ経済の立ち直りに必要な政策を打てるかという疑問もある。
仮に今後、更にリラの下落が続くようになればIMFの支援も仰がねばならなくなるかもしれない。皮肉にも、IMFの最大出資国はトランプの米国である。(参照:「
El Confidencial」)
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。