――それにしても、お忙しい中、先生がこの脚注をお引き受けくださった理由とは何なんでしょうか?
上西先生
上西:それはやっぱり、「国会は終わっても、知らんぷりさせないぞ」って気持ちがあったからですね。
メディアは往々にして「野党が反発した」とか「追及が甘い」とか書くだけで、政権側がまともに答弁していないことをきちんと書かないでしょう。ただ、「報じてくれない」って言ってるだけじゃ仕方がないから。「Yahoo!ニュース 個人」で私もネット記事を書いているけど、一定層以上には広がらないんですよね。
私のTwitterのフォロワーも、裁量労働制のデータ問題が話題になる前は4000くらいだったのが今、1万5000くらいになって、読者層は広がっているんだけど、それでもやっぱり政権側がどういう答弁をしていたのかって全然知らない人っていっぱいいるんですよ。
そんな中で何かできないかと思って始めたのが国会パブリックビューイングで。でもあれも急に始まった活動で。国会パブリックビューイングの活動開始って6月15日なんですよ(笑)。6月11日にアイデアを思いついて、15日にはもう実現していましたからね。横川さんらのバックアップがあってこそでしたが。
――それも話が早いですね(笑)。
上西:それは国会答弁が、リアルタイムで「歴史修正」が行われるくらい酷いものになっていたのに、それを世間の人が知らないからなんとか広めないといけないという気持ちですよね。私、裁量労働制について書いた「Yahoo!ニュース 個人」の記事でも指摘したんですが(参照:
「裁量労働制の方が労働時間は短いかのような安倍首相の答弁は何が問題なのか(予算委員会に向けた論点整理)」)、例えば加藤厚生労働大臣は国会答弁のその場で、平然とこれまでの答弁と違うことを「先ほども『平均的な者(しゃ)』申し上げましたけれど」と言い始めたりするんです。言い直しとかそういうレベルじゃないものです。映像も議事録も残るのにですよ? それでも平然と言ってもないことを言う。
そんな答弁で大丈夫だと思っているくらいにあからさまなんです。私はこの件に言及したときに、都合の悪い事実は、国家によってなかったことにされ、その事実の記録は書き換えられるという『1984』の話を書いたんだけど、これはもう事実の改ざんですよ。
その後も、高度プロフェッショナル制度が過労死を増やすという指摘に対しても、長時間労働の是正を行いますみたいな感じで論点をすり替えて答弁を続けました。明らかに確信犯で、嘘だらけの答弁でも反対を塗りつぶしてしまえばいいんだという。やりとり全体を聞けば無茶苦茶なのに、答弁だけ聞いてると、まともに聞こえるときもある。だから報道できちんと言及されないと一般の人はわからない。こうした状況を前にしたとき、「理」を説いて反論しても塗りつぶされるだけで、無理だなと思ったんです。
裁量労働制を批判して法案から削除させたときは、鋭く、深く切り込むことを考えていたんだけど、高プロのときは深く切り込んで、理論的には完全に否定できたにも関わらず、現実的には潰れなかった。そこはもう国会の中とか労働運動とかいう枠を超えて、より広く、働く人に届く声をちゃんと発信していかないとひっくり返せないと思ったんです。
それで国会で何が行われているかをきちんと可視化して、関心がない人でも街行く中で目をとめてもらえるように、国会パブリックビューイングを始めたんです。この本の脚注・解説を手掛けたことも、同じ気持ちが根底にありますね。ネットでわざわざ議事録やインターネット審議中継の録画を見る人は少ないけど、書店で平積みされていれば手に取る人もいるかもしれない。そういう思いでした。